「兄貴最近楽しそうだね」

学校への道のりを並んで歩きながら、幽はぽつりとそう言った。

「え……そうか?」
「うん」

こくり、と頷く幽に、自分では全く気づいていなかったその変化に驚く。理由なんて考えなくたって分かる。最近、自分の周りの環境が変わったことなんて、あいつのこと以外に何がある。年の離れたおかしな友人のこと以外、何もないじゃないか。
そこまで考えて、いやいや、と首を振る。あんな不審者と友達になれて嬉しいなんて、そんなはずは。多分ちょっと新しい刺激が新鮮なだけだ。それか、アイスやらラムネやらを奢ってくれることに対するお徳感とか、所詮そんなのに違いない。臨也のことは嫌いではないが、臨也が原因で俺が目に見えて嬉しそうなどというのは、認めたくなかった。

「何があったのか知らないけど、兄貴が楽しいならそれでいいよ」

幽は無表情のままそう言って、足元の石ころを蹴った。石は滑るようにコンクリの上を跳ねる。それを追いかけるように幽が小走りになったので、俺はその後ろ姿に追いつくためにいつもよりも大きな一歩を踏み出した。

*

「シズちゃんおつかれ!」

一体何の仕事をしているのか知らないが、こいつはこんなことをしていて大丈夫なのかと言いたいくらいに臨也は毎日下校時の校門で俺を待っている。流石にそろそろ不審者として通報されてもおかしくないんじゃないかと思うのだがどうだろう。とにかく、臨也は今日も俺を待っていた。そして、それを分かっていながらついつい期待してしまう自分がいるのだ。それは確実に、臨也の持ってくるお菓子や飲み物ではなく、臨也自身に向いていることに、俺はうっすらとだが気付いていた。それでも、知らないふりをした。知らないふりを、したのだ。


「今日はねえ、チューペット!いちご味だよ」
「おっ、分かってんじゃねえか」
「シズちゃんえらそー。これ俺の奢りなんだからさ、もっと嬉しそうにしてよね」
「んなの分かってる」

通い慣れた公園のベンチにて、臨也は一本のチューペットをぱきりと切れ目で綺麗に折ると、片方を俺に渡して残りをくわえた。「冷たくておいしいねえ」なんて言う臨也はやっぱりいつも通りのファー付きコート。暑いんなら脱ぎゃあいいのに、と思いながらも、やっぱり臨也は汗をかいていないから、口に出来ずにいる。どんなびっくり人間だよ、とか俺が言ったら怒られるだろうか。
俺も受け取ったチューペットを口にくわえ、がり、と歯でビニールごと噛んで中の氷を砕いてから、しゃりしゃりとした感覚を味わう。口内に広がるいちごの味と、氷の冷たさが何とも言えない。それと反対にじりじりと肌を焦がす日射しは暑く、これでまだ真夏日でないのだから驚きだ。もうすぐ夏休み。今年の目標は以前と変わらず、部屋でクーラーを使用し過ぎないことかなあ、なんてぼんやり考えた。

そんな中、いつの間にやらチューペットを早々と食べ終えたらしい臨也は(こいつは何故かアイス関係になると食べるのが無駄に早い)、空のベタついたビニールを公園のゴミ箱に捨てた。自らの手のベタつきは蛇口から出た冷たい水で洗い流す。そうして、こちらに向かって走って戻ってきたかと思うと、突然両手を俺の顔の前に突き出した。出された両手は指をおったグーの形で、俺がようやく臨也の意図を読み取って体を引くよりも前に、臨也の両手は勢いよく開かれた。

「うわっ」

ぱっと水飛沫が舞う。冷たい滴が頬から首にかけて散った。臨也は笑いながら濡れたままの手を振り、残りの滴を払い落とす。

「あははっ、キレーにひっかかったねー」

そう言って笑う臨也を見ていたらなんだか無性に悔しくなって。ごくん。口内のシャーベットを溶かし終えた俺は、いちご味の液体を飲み込んだ。そうしてすっくと立ち上がると、水飲み場の蛇口で両手を目一杯濡らし、そのまま臨也へと突進攻撃。

「えっちょっ、シズちゃんタンマ!」

臨也の叫ぶ声が聞こえたが、そんなの俺には関係ない。やられたら二倍にしてやり返してやんなきゃなあ、臨也くんよお。

「臨也覚悟ぉお!!」
「やだよびしょびしょじゃん!その手で触るつもりでしょ!」
「せーかい!」
「っだー!やっぱし!」

こっち来んな!と逃げる臨也と、俺との鬼ごっこの始まり!

(100508)

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