コトネとシルバー

朝から大変なものを見てしまった。いや、別に万人にとって大変って訳じゃないんだけど、あたしにとってはとてつもなく重要っていうのかな。うん。あんなにかっこいい先輩がいたとは……!
自然と綻んでしまう頬に目敏く気付いた幼なじみは、「なんだその面。きもちわるい」なんて言ってきた。なんて奴だ。いつもなら悪態の一つでもつく所だけど、今日のあたしは機嫌がいいから許してあげよう。

「朝からすごくかっこいい先輩見ちゃってさ、えっと」
「………、グリーン先輩か」

得意気に話し出したあたしの前に突然現れたその名前は、馴染みのないものだった。

「だれそれ」
「お前グリーン先輩も知らないのか?ふん、これだから馬鹿は」
「そんな辛辣な言葉はやめて。いや、かっこいい先輩っていうのも見ただけだから、名前までは知らなくって。そのグリーン先輩?かも」
「あーなら諦めろ」
「やーよ!…うーん、でもあの人はどっちかって言うと……」

黒髪に赤い帽子で、赤い瞳の先輩。グリーンというよりも、そう。

「レッドせんぱい、みたいな」

呟けば信じられないというような視線で見られたもんだから、ああこれはきっと正解だったなと確信した。

「お前の趣味おかしい」
「えー、かっこよかったんだったら!」
「寝言は寝て言え」
「あんたほんと冷たい」

お前の恋愛になんか興味ねーよとでも言いたげにふわあと欠伸をするシルバー。せっかくあたしが恋愛相談を持ちかけてやってるってのに失礼なやつ。ふん、と鼻を鳴らして時計に目をやれば、あれまあこんなことしてる場合じゃない!

「っやば、もう時間ないじゃん!ねえねえシル」
「いやだ」
「即答しなくても」
「どうせ英語の予習だろ。なんで見せてやらなきゃならないんだ」
「えっ何で分かったの!?」
「だってお前今日当たるもん」
「大当たり」

予習見せて攻撃を仕掛けているうちに予鈴が鳴り響いたので仕方なく席についた。教室にツカツカと入ってくる先生と出来るだけ視線をあわせないように、と下を向いて教科書とお見合い開始。お互い当たりたくありませんね、なんて会話を交わす暇もなくあたしの心はどきどきばくばく。だって先生が怖いんだもの!あああお願いします、神様仏様、

「それでは5行目からの和訳を、コトネさん」

なんて残酷。なんて凄惨。ひどいひどい、神様のばか!こんなに祈ったのに!いや、予想は出来てましたけどね。

「え、っと、彼はポケモンと共に?世界中をまわり、」
「つまりはどういうことでしょうか」
「え、ええとですね」

そんなの知りません!と叫べたらどんなに楽だろうか。でもこういう時、小心者のあたしには無理。あーとかうーとか唸りながら視線をあっちこっちへきょろきょろ。先生もあたしが予習してないことくらい分かるだろうに、意地悪だ。うわーんもうやだ!恥ずかしさから耳まで真っ赤で最初より俯いたあたしに、聞きなれた声による流暢な英単語が飛び込んできたのはそれから一秒も経たない頃だった。

「play a match」
「……は?あ、えと彼は、パートナーであるポケモンと共に各地のジムを制覇して」
「ええそうです。それでは続きを…」

どうやら乗り切れたみたい。あーあ、またシルバーに助けられちゃった。それなら初めからノート見せてくれればいいのに。だけどやっぱり有難かったから。そっぽを向いてる幼なじみに向かって「…ありがと」とお礼を呟いた。1、2、3。三秒待ったけど反応はゼロ。こういうところがモテない原因だと思うんだ。……まあいいけど。

さーてと、それよりレッド先輩と言うらしい彼のこと、もう少し知りたいなあ。うーん。
シルバーにこれ以上聞いたところで情報は得られなそうだと考えたあたしは、昼休みにでもゴールドに聞いてみようと心に決めるのだった。

(100119)

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