グリーンとレッドさんとナナミさん

「グリーンみかんとって」
「自分でとれよ!」
「めんどくさい」
「見て分かるよな。俺は今蕎麦茹でてんの」
「はいレッドくん」
「ナナミさんありがと」
「姉ちゃんも甘やかすな!」

正直誰も見てはいないであろう紅白をつけっぱなしにしたままのテレビ。いつの間にやらラスト二曲だ。それを気にすることもなく、レッドは炬燵でこれでもかというくらいごろごろしている。先に言っておくがここは俺の家だ。
手を伸ばせばぎりぎり届く距離にあるみかんすらレッドにとっては面倒らしく、炬燵にすっぽり収まって出ようとしない。隣に座っている姉ちゃんがかごの中のみかんを一つずつ触り、美味しそうなやつを選んでやると、レッドは嬉しそうに受け取った。

そんなレッドとは対照的に、夕飯の片付けを終えた俺は、今度は年越し蕎麦に取りかかる。ジムの大掃除を終えてようやく家へたどり着いたってのに心休まる暇はないらしい。

「みかんおいしいわね」
「グリーンも食べればいいのに」
「嫌味かこのやろう」

レッドがちゃんとしたのを食べたいっていうから態々茹でてやってるんだぞ、めんどくさい。今からカップ麺にしたっていいんだからな。
そんなことを考えながらも止まる気配のない右手が少しだけ笑えた。結局は損な役回りなのにそれが嫌じゃないんだから困ったもんだ。

「今年はやっぱりクルミちゃん効果で紅じゃないかしら」
「確かに。白は特に目玉いないしなー」

茹で上がった蕎麦をお椀に開け、炬燵へと運ぶ。黙々とみかんを食べるレッドの隣に座りながら姉ちゃんの問いかけを軽く受け流した。そういえば今年はクルミちゃんが出るとかで巷じゃ色々と騒がれてたんだっけ。ほんと家は何も変わらねえ。

「わあ、おいしそう!やっぱりグリーンはお料理上手ね」
「料理って…蕎麦茹でただけじゃんか。姉ちゃんのが上手いだろ」
「私はお菓子専門なの。冷めちゃう前にいただきまーす」
「いただきます」

俺もようやく落ち着けるってもんだ。二人に続いて蕎麦へと箸をのばした。うん、うまい。隣でずずー、と音を立てるレッドの頭を軽く叩くとこちらを睨まれた。つけっぱなしだった紅白はいつの間にやら結果まで出ていて、予想通り紅の勝ちだった。

「やっぱ紅か」
「今頃博士喜んでるんじゃないの?」
「現物見に行ってるからさ、多分飛び上がってるぜ」
「新年のポケモン講座までには落ち着いてるといいわね」
「…いつもと違って生放送なのに失敗しそうだな」

実現しそうな予言に苦笑いしつつ、姉ちゃんは時計を見上げると急に立ち上がった。何かと見上げると、焦ったようにこちらを見て、「あと30秒!」と告げた。何のことやら分からないという顔をしていると、「12時までよ!」と急かす姉ちゃんに怒られた。

「ほらグリーン、あと15秒」
「なにやってんだよ早くしろ」
「お前に言われたくねーよ」

自分だって立ったばかりのレッドにそう言われると、ついつい言い返してしまう。そうしてやっと重い腰をあげた。今年は例年より寒い大晦日。室内とはいえ寒いのだから正直炬燵から出たくはないが、まあ仕方ない。

「あと10秒だってば」
「はいはい。よっこいしょ、と」
「じじくさ」
「何だと」
「ろく、ごー」

一言交わすだけで言い合いになる俺達の間に入るように(急かす意味も含むであろう)姉ちゃんのカウントが始まった。

「よん」

それに続くようにレッドが数字を呟くものだから、俺も焦ってカウントに参加する。

「うおっ、に、いち」
「せーのっ」

1の数字を口にした直後の姉ちゃんの合図を皮切りに、ジャンプ。俺とレッドと姉ちゃん、三人同時に浮き上がる体。空中で制止していられる時間はほんの少しだけ。問題はない。年越しジャストは一秒だけだ。

どん、と三人で床に着地。あまり華麗なものとはいえないが、まあいいだろう。やっぱり年の終わりにはこれをやらないと、締まるものも締まらない。笑顔の姉ちゃんは俺とレッドの顔を順々に見ると、「あけましておめでとう!グリーン、レッドくん」と告げた。そうして、「これ、お年玉」などとポケットから二人分のピカチュウが描かれた封筒を取り出すものだから、慌てて断れば、レッドは「ありがとうございます」と受け取ろうとするので叩いてやった。

「なにするんだよ馬鹿」
「馬鹿はお前だ。この歳になって友達の姉ちゃんからお年玉もらうなよ」
「くれるものはもらわないと」
「遠慮しろ!」

今年も俺達は年越しの瞬間地球にいませんでしたとさ!

―――
タイトル→花洩
少し前まではぎりぎりまで紅白やってたようなイメージがあります。
今年もちゃんと飛びました。あけましておめでとうございます!
(091231)

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