コトレ(可愛くて純粋なコトネちゃんが好きな方はバックバック!)

ひゅ、と息を飲む音がしたのが、自分でも分かった。俺はたった今、目の前の少女に負けた。初めて味わった敗北。俺の手元には、もう戦えるポケモンがいないのだという事実を認識することが、まず難しいことであった。少女、コトネは可愛らしくえへへと笑うと、こちらへと視線を向けた。

「あたしの勝ちですね、レッドさん」
「、」

まだ未開の地へと踏み込んだかのように動くことが出来ない。だって知らないんだ。こういう時、どうしたらいいかなんて。

「だから、跪いてください」

ああ、女の子って怖い。
さっきまでの天使みたいな微笑みは何処へ消えたのやら。目の前にいるのは可愛らしい女の子から、ただの悪魔へと入れ替わっていた。


*


「、つ」

ぐり、と頭を踏みつけられる。いつもなら冷たさなど気にしないはずの雪に、頬が擦り付けられてじりじりと痛む。いたい、つめたい。頭に乗っている足はたかが一少女のものなのに、動くことは出来なかった。ポケモンバトルに負けたこと。それが俺を、凍らせる。

「痛いから止めてって言ってみてくださいよ。そうしたら止めてあげる。ねえ、」

レッドさん、と耳元で囁かれれば、言う通りにせずにはいられなかった。プライドとか、そんなものは負けた時点でとうに何処かへ消えたのだ。今更何を、

「…やめて。痛い、から」

いつも通りの平然とした口調で話せていたかどうか自信はないけれど、俺は間違ったことはしていないはずだ。コトネは満足げに微笑み頷くと、ゆっくりと足を退かした。そうして俺の目の前にしゃがみ込むと右手を差し出した。その手を取らないなどという選択肢は存在していなかった。だから伸ばした。冷えきった指先が暖かな手のひらに触れた瞬間、ぐいと力強く腕を引かれ、俺は前屈みに座り込む。
気付けばこの極寒の地で、コトネは片方だけ素足を晒し、俺の前へと差し出した。意味が分からないなんて、そんなことは言わない。抵抗もしない。何故かなんて簡単なことだ。負けたことのない俺には分からない。そう、だから。

勝者の言うことはきくものだろう?

「……、ふ」

ぺろり。眼前の足を冷たい手にのせ、指先へと舌を伸ばす。ぴく、と震えたのが分かったけれど、引かないところを見ると多分間違ってはいないのだろう。そのまま踵を舐め上げれば、寒さにやられているであろう足はじわりと冷たさをもたらす。少しばかり視線を上げると、彼女と目があった。そうして彼女はまた嬉しそうに笑うのだ。どうしてこれが楽しいのか、なにが嬉しいのか。そんなことは俺には分からなかったけれど、ただ一つ分かっていたのは、負けた俺にはそれらの何一つとして詮索する権利はないということだけだ。
そうして吹雪の中、彼女の希望通りにそれは続く。笑顔の彼女がこちらを見ているというだけで、どうにもこうにも思考まで停止してしまうようだった。

どうやらぼくは、あくまに食べられたらしい!

―――
タイトル→joy
負けたことのないレッドさんは、負けた時どうしたらいいのか分からないんじゃないかな
(091215)

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