緑間と赤司

木立の間を勢いよく吹き抜けてゆく風にかさかさと枯葉が舞う。
大切な指先は冷やさぬように毛糸の手袋で覆い、首元は厚手のマフラーで保護。本日も緑間の防寒は完璧であった。

掃除が行き届いた暖かな室内で、紅白をBGMに蕎麦を食べ年を越した翌日。家族と出掛けた初詣の人混みのなかに、一際目立つ赤い頭を見つけたのは偶然であった。
声をかけようか悩んでいるうちにあちらから呼び止められ、親と別れ赤司と行動を共にし出したのが数分前。
これだけの人が集まるのも年始ならでは。隣で両手にほうと息を吹きかけている赤司の姿を見失わないかどうかが、目下緑間の不安なところである。

「こんなにも寒いというのに手袋すらしていないとは。お前は馬鹿なのか」
「これくらいで馬鹿呼ばわりされるとは心外だ。まったく」

ふん、と軽く鼻をならしながら、赤司は指先を手のひらで隠すように握りこんだ。そのままポケットに突っ込んでみたり、両手を擦り合わせたり、としばらく色々と試みていたようだが、 真っ赤な視線が手袋に包まれた緑間の手のひらを射抜いた。

「……なんだその視線は」
「緑間なら察してくれるかと思って」

ひらひらと当てつけのように両手を振ってみせる赤司の視線が痛い。
冷気に晒された手のひらを眺めていると、こちらの背筋まで寒くなるような気がして耐えられなかっただけだ。
気付かないふりを貫くつもりだった緑間の決心は、そんな言い訳と共にあっけなく瓦解し、渋々自信の左手が纏っていた手袋をそっと外すと、赤司の左手に嵌めてやった。

「今日だけなのだよ」
「おお……」

突如温かさに包まれた左手を前に、赤司は感嘆した。
生まれて初めて手袋を身に着けたわけでもないだろうに、なんだその大げさな反応は。

緑間はと言えば、手袋を外した途端、冷え切った外気にあてられたかのように、つい先ほどまで留まっていた熱が驚くべきはやさで退いて行った。
かじかむ指先を庇うように左手をぎゅっと握りしめると、少しはマシな気がしたがそれもつかの間。一月の冷え切った風の前には無意味のようだった。じわじわと身体の内側まで浸食してさえ来そうな冷気にぶるりと背筋が震える。マスクの中で跳ね返る自らの吐息の温かさだけが救いだ。その代償に眼鏡が曇ることはいただけないが、寒波に口元を晒すよりはマシなので我慢する。

「そもそもお前がきちんと防寒に気を使っていれば何の問題もなかったのだよ」

一言文句を言い始めれば、次から次へつらつらと勝手に出てくるわけで。喋れば喋るほど眼鏡は白くくもると言うのに、不思議と止まらなかった。よくよく考えればそれは先程感じた感情への照れ隠しだったのかもしれないが、緑間がそのようなことに気付くはずもない。
大体お前はいつも……と止まない文句を紡いだところで、緑間の眼前に星が舞った。
つめたい風にさらされた瞳が痛みに潤んだのか、それとも自前のまつげが目に入ったのか。
理由はそのどちらでもなかった。

「ありがとう」

同じように温かさのかけらもない赤司の右手が、緑間の左手を包み込むように触れていた。
お互いの手のひらは指先まで氷のように冷え切っているというのに、触れ合った一点はまるで熱湯でも浴びたかのよう。
曇りに曇った緑間の眼鏡では赤司の表情など見えなかったが、耳に届いた聞きなれた声は非常に機嫌が良さそうであった。

A HAPPY NEW YEAR!!!
初詣なのにらしさが全くない・・・
―――
(130101)

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