静雄と臨也
※性描写ありですのでR18でお願いします。


カタカタ、というパソコンのキーボードを叩く音が耳につく。つけっぱなしにしていたテレビは特に面白い番組もやっていなかったため、先程消してしまった。車道を走る車の音くらいしか聞こえなくなった部屋ではキーボードの音はなかなかに響く。
音をたてている当人である臨也は、三時間以上パソコンの画面を見つめたまま出来るだけ動こうとしない。この間に立ち上がったのは、トイレに立った時の一度きりだった。
ここは臨也の家だ。だから臨也が仕事のためにパソコンと向き合っていたってなんらおかしいことではない。
しかし今は臨也一人がこの空間にいるわけではない。

今日は臨也の家に泊まる約束で、俺は昼食を食べてから臨也の家へとやって来た。インターホンを押すと、数秒空いた後ドアが開いて臨也が顔を出した。
臨也は眼鏡をしており、「適当にあがって」とだけ言うと、自分はさっさとリビングへと戻って行ってしまった。
眼鏡姿の臨也を見るのは初めてではない。臨也は大抵仕事をする際は眼鏡をかけている。そんなに目が悪いのかと聞くと、普段生活するのには然程支障はないんだけどねと笑った。
丁度仕事の最中だったのだろうかと、寛大な俺は文句も言わずにリビングへと踏み込んだ。

臨也は予想通りパソコンに向かっており、真剣な表情で指先をキーボードの上ですべらせていた。
俺は臨也の仕事がひと段落するまで先にコーヒーでも飲んでいるかとキッチンへ向かったが、俺がコーヒーを準備していると目ざとく気付いたらしい臨也は、「シズちゃん俺にも」なんて注文をよこした。
ここはお前の家なんだから、俺は一応客にあたるんだぞと言いたくなったがここは我慢した。せっかくの休日、喧嘩で終わらせてしまうのはとても勿体ない。
心優しい俺は臨也の分もコーヒーを淹れてやり、パソコンの乗っているデスクの脇にコトリと置いた。
臨也はちらりと目線をやると、「ありがとう」と礼を言ってコーヒーを一口飲んで、またパソコンへと視線を戻した。
俺は自分用のコーヒーに砂糖とミルクを入れて、溶かすようにゆっくりとかき混ぜてから口をつけた。そうしてソファに座り、テレビをつけてチャンネルを回したが、残念ながら面白そうな番組は見つからなかった。とりあえず適当な刑事ドラマに目星をつけ、それを眺めながらコーヒーを啜った。

そうしているうちに三時間以上が経過していたというわけだ。その間俺が何をしていたかといえば、煙草を吸いつつ結局刑事ドラマを二本最後まで見てしまった。灰皿には先が押し潰された煙草の吸い殻がいくつも転がっている。それでも余りある時間はそれ以上に興味のないテレビショッピングの番組を流していたが、社長の声がうるさいので消した。そうしてもう何度目か分からないが、俺はまた臨也の方へ視線をずらした。
そろそろ我慢の限界だった。一体臨也の仕事はいつになったら終わるのか。俺はいつまでこうして見たくもない番組を見ていなければならないのか。
いっそ寝てしまおうかとも思ったが、臨也の家にいるってのにその時間を寝ることに使うのはなんとなく嫌だった。それに寝過ごしてしまう可能性もあった。そんな俺を臨也がわざわざ起こしてくれるかは全く保障がなかった。

「なあ、まだ終わんねえの」
「ん…もうちょっと」

キーボードを叩く音は止まらない。臨也はこちらを見ようともせずにそう言った。
俺は立ち上がると空になったマグを持って臨也の座るデスクへと向かった。臨也の背後からひょいと画面を覗こうとすると、臨也は眉間に皺を寄せながらパソコンの画面を俺に見えないように向きを変えた。

「ちょっと、個人情報だよ」
「いつまでそれやってんだよ」
「だからもうちょっとだってば」
「ちょっとちょっとって、手前さっきからそればっかじゃねえか」

変わらない臨也の返答に苛々が募る。握った右手の中で、マグの取っ手が嫌な音をたてた。

「…わかったよ、このクライアントの分終わったら止めるから」
「ほんとだろうな」
「嘘ついてどうするんだよ。ああそうだ、シズちゃん暇ならコンビニでなにか買ってきてよ。酒とつまみと…今夜は飲もう。つまみはシズちゃんの好きなのにしていいからさ」

手前は嘘ばっかりつくだろうが。そう思ったが、臨也の言葉通り暇人であった俺は、取っ手にヒビの入ったものと臨也にコーヒーを入れてやったもの、計二つのマグを流しで水洗いしてから、財布だけ持ってコンビニへ向かった。


コンビニに着くと、まず俺は酒の並ぶショーケースをじっと見つめ、缶ビールと梅酒、それにチューハイを二本ずつカゴに入れた。臨也がワインが飲みたいなんて言い出しても、あそこはあいつの家だからワインくらいあるだろう。
次にお菓子コーナーを覗き、柿ピー、さきイカ、ポテチ、チー鱈などをぽいぽいとカゴに放り込んでいく。臨也は俺の好きなものを選んでいいと言ったのだから遠慮はしない。よく考えたらこれは俺の金だから俺が何を買おうが自由なのだが、苛々を紛らすためにも、と我慢はしないことにした。最後にデザート用のプリンをカゴに入れ、レジで精算を済ませた。
外に出ると、最悪なことに雨が降っていた。財布一つで出てきた俺が傘なんてものを持っているはずもなく、俺は店内へUターンするとビニール傘を買って再び外へ出た。
ああ、無駄な出費だ。透明なビニール傘にあたって跳ね、地面へと落下してゆく雨粒を見ていたら、なんだかなにもかもが臨也のせいな気がしてきた。
はあ。ため息をひとつつくと、俺は雨の中臨也の家への帰路についた。


左肩が少し濡れてしまったが、傘のおかげでシャワーを浴びるほどではなかったのが幸いだ。臨也の家でシャワーを浴びるとどうしても行為のことを意識してしまう。今夜は飲んで酔った勢いでするのだろうか。臨也はともかく俺はそこまで酒に強い方ではないので、爆睡するような飲み方だけは止めようと自身に言い聞かせた。
タオルで肩と髪の毛を拭きながらリビングに入ると、臨也は未だにパソコンと睨めっこの真っ最中だった。
おいおいさっきので最後っつったのに、まだ終わんねえのかよ。
不満だけが溢れてくるが、どうやら臨也は電話中のようなので、仕方なく買ってきたつまみをキッチンに置き、酒は冷蔵庫に仕舞った。
再び臨也に視線を移すと、ちょうど電話は終わったらしい。うーん、と伸びをする臨也に向かって「買ってきた」と告げると、臨也は「はーい、ありがとう」と言って右手をひらひらさせた。
俺はそんな臨也の背後に回り込むと、背中から臨也を抱きしめた。やっぱり臨也の身体は細い。力を込めたら簡単に折れてしまいそうだ。

「どうしたのシズちゃん。俺が仕事ばっかでシズちゃん放っておいたから、寂しくなっちゃった?」
「……悪いかよ」
「あれ、当たり?」

臨也はこちらを見上げてふふ、と笑った。眼鏡の奥で赤い瞳と視線がぶつかる。
掌を臨也の頭の後ろに差し込んで、顔を持ち上げるとそのまま口付けた。指の間をさらさらの黒髪が滑り落ちる。
臨也はこちら側へ上半身を寄せ、右腕を俺の背中に回した。
音をたてて離れた唇から息が漏れる。鼻先に当たって邪魔だった眼鏡を外し、臨也の身体を引き寄せて、そのまま床に倒れこんだ。

「まだ夕方だよ」
「うるせえ。手前が仕事ばっかしてんのが悪いんだろ。俺が刑事ドラマに割いた時間分返せ」
「はいはい、ごめんねえ寂しい思いさせてー」
「手前は喋るとイラつくから黙ってろ」
「なにそれ、おうぼー…ん、」

未だ喋り続けようとする臨也の口に噛みついてやると、臨也は答えるように舌を絡ませてきた。




右手で臨也のペニスを弄りながら、胸の突起をべろりと舐めあげる。

「…っあ、う…しずちゃ、ちょ、そこ」

上擦る臨也の声を聞きながら指先をはやめる。

「っあ、うあ、まって、でる、ってばあ…!」

徐々に先走りが溢れてきた亀頭を、ぐちぐち、と指の腹で擦りあげると、びくりと身体を痙攣させて臨也は俺の手の中でイッた。
俺は臨也の自身が吐き出したどろりとしたそれを、指先で掬うと臨也の後孔に塗りつけた。一本ずつ中に指を入れ、精液を潤滑油代わりにして解していく。臨也は床に爪をたて、唇を閉じているが、隙間からは熱い吐息が漏れていた。

精液と体液が混ざり合ってねっとりとした臨也のナカは熱く、ようやく三本の指が埋まった。最初は少しずつ、段々と大きく指を動かすと、閉じていた臨也の口から小さく声が漏れ始めた。

「ん、…っふ」

指先で前立腺の辺りを擦りあげた途端、臨也の身体がびくつくのが分かった。そのままそこをもう少し攻めてもよかったが、そろそろ俺が限界なので、埋めていた指を抜き取って俺のペニスを取り出し、臨也のアナルに密着させた。

「入れんぞ」
「いちいち、言わなくていいから…ッア、はやく」
「っ、」

急かすような物言いに我慢が出来なくなった俺は、臨也の腰を掴んで自身を押し込んだ。

「ん、っん…っうあ、っは、しずちゃ、ゆっくり…」
「っも、我慢出来ねえんだ、よ…!」
「っは、あ、う…っん!」

臨也の声が鼓膜を刺激する。
俺が律動を始めると、暖かい臨也の後孔が俺のモノを締め付けた。
それに連動するかのように、俺の動きは激しくなる。
臨也は真っ赤な瞳に涙を浮かべ、俺の背中にしがみ付いた。俺も負けじと臨也を抱きしめる。

「っあ、あ…っも、イク、からぁ…っ」
「いざや、こっち向け」
「え…っん、」

押し付けた唇の間から舌を滑り込ませると、臨也は縋るように俺の背に爪を立て、舌先で答える。
臨也の大きな瞳からぽろりと涙が溢れ、身体がびく、と跳ねたのと同時に、俺の自身も果てた。




「……シズちゃんさ、夜まで待てなかったわけ?」
「手前がいつまでも仕事してるのが悪いんだろ」
「あは、なあんだ。やっぱり寂しかったんだ。それならそうと言ってくれればいいのに」

臨也は目論見通りであることを楽しむかのように笑った。

「…臨也、お前分かってただろ」
「えー、なんのこと?しーらない」

タオルケット一枚以外は肌を晒したまま、枯れた声でけらけらと笑う臨也には、いつものような殺意は沸かなかった。

「せっかく酒につまみ、買ってきてもらったのになあ」

とっくにそんなこと忘れているかと思っていたが、臨也は案外夜の飲みを楽しみにしていたらしい。どうやら仕事で忙しいというのはあながち嘘ではなかったみたいだ。

「安心しろ。俺が食っといてやっから」
「またまた。俺がいないと寂しいくせに」
「…もう一ラウンドいっとくか」
「ウソウソ!!もう今日は遠慮させてもらうよ…疲れたし」

ごろ、とソファの上で寝返りをうった臨也の顔をつかんで、こちら側へ向かせる。

「臨也」
「ん?…む、」

触れ合う唇の熱が俺の口寂しさを紛らわせた。これなら煙草のない生活もいいかもしれねえ。

―――
タイトル→g
(110804)

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