幼なじみ組とN
学ぱろで馴れ初め話

「皆で同じ高校行けてよかったねえ」

校門を通り抜け、四人で並んで校舎への道を歩きながらベルが笑顔でそう言った。

「っつーかココ選んだ理由が全員家から近いからってのが笑えるんだけど」
「えー、だって朝はゆっくり寝られるし、家からの距離って大事だよぉ」
「そういって初日から遅刻しそうになったのは誰だったかな、ベル」
「む…でも、トウコだってトウヤがいなかったら遅刻しそうだったもん」

何故そこであたしの名前を出す、と思ったが確かにベルの言う通り、あたしは目覚ましをかけるのを忘れてしまったらしく、トウヤに起こされた時には家を出る予定の時間の15分前だった。あたしが遅刻をしなかったのはトウヤのお陰といえばそうなのだが、それならば何故もっと早く起こしてくれなかったのだと文句を言いたくなったのは、どうにか我慢した。

「結局遅刻しないですんだからいいの」
「じゃああたしも遅刻しなかったからいいんだよぉ!」
「はいはいもう分かったから行こうぜ。クラス分けはやく見てえし」
「あーっそうだよね、皆一緒だったらいいのに!」

祈るように手をあわせるベルには残酷なことを言うようで悪いが、それは多分無理だろう。

「5クラスあるわけだから、全員ばらばらって可能性もあるわよね」
「まあ二人ずつに別れればいい方だろうな」
「わああ、何かそう言われたら見るのこわくなってきたよぉ…!そうだ、じゃあ四人せーので見よう?抜け駆けしたらだめだよ!」
「ベル、そこまでしなくても」
「いいから!ホラ、いくよ!」

ベルはこうなったら止められないのはあたしたちのうち皆が分かっていることなので、仕方なくベルに従った。

「せーの!」


*


E組、とかかれた教室のドアをがらがらと開けて室内に踏み込むと、そこは入学式らしい静かな空気に支配されていた。まだ知り合いがいない生徒の方が多いためか、やはり既に楽しげに笑い会っている様子は殆ど見受けられない。皆が皆それぞれ緊張した面持ちで、黒板に色とりどりのチョークで書かれた歓迎の言葉を見つめている者や、落ち着かない様子で意味もなくカバンの中身をいじっている者等様々だ。

そこに加わるあたしも決して煩くする予定はなかった。それは緊張している皆に悪いからとか、そんな理由があるわけではない。話したくても話す相手がいないのだ。
そう、先程のベルの提案の先に待っていたのは、弟を含む幼なじみたちは三人一緒のクラスで、あたし一人が別のクラス(しかもフロアの端と端だ)という、なんというかとても残念な結果だった。

だからといって何かしらの文句を言ってごねていても仕方がないので、あたしはため息をひとつつくと割り切って自らの席へと向かった。クラス分けで運を温存していた分、ラッキーなことにあたしの席は窓際から二列目の一番後ろという、内職をしていても先生に注意されにくいという素晴らしい場所だった。入学式の時間になったら、教室まで担任の先生が迎えに来るそうなので、それまでは暇だとぼうっとしながら足をぶらぶらさせて気を紛らす。どうせ入学式なんて校長の長い話(校長というのはどうして誰も彼もあれほど長く話していられるのか、あたしは不思議でならない)を聞かされて、順々に名前を呼ばれるだけの形式的なものだ。今日はもう授業もないし、はやく帰りたいなあなどと初日から考えているあたしは不真面目なのだろうか。

そんなことを思考しているうちに担任であろう先生がやってきて、元々静かだった教室がよりしいんとなった。先生は皆の緊張を和らげようとしていると伺える口調で、これからの行動を指示した。その言葉に従ってがたがたと音をたてて立ち上がるクラスメート達に習い、あたしも立ち上がり廊下へと向かう。その時ふいにあたしの右隣を見ると、そこはまだカバンもかかっておらず空席のままだった。入学式当日から遅刻だろうかと少し馬鹿にしそうになったが、今朝の自分を思い出すとそんなこと言える立場ではないなと思い、顔も知らない誰かさんに心の中で謝っておいた。そうして向かった入学式にもその生徒は現れることはなく、あたしの後ろの席はぽっかりと空いたままだった。

*

あまりのつまらなさに爆睡してしまった入学式(そのため自分の名前が呼ばれた際のあたしの声は上擦っていたことだろう)の後、教室でのプリント配布や軽い自己紹介を終えたあたしはうーんと伸びをしてから、ほぼ中身の入っていないカバンを持ってトウヤ達のクラスであるA組に向かった。
磨りガラスが嵌め込まれたドアから中を覗いてみると、どうやらまだ話が終わっていないらしい。というか、あたしのクラスとは比べ物にならないくらいに盛り上がっている。一体どうしたらこんな差が生まれるんだろうと思ったが、そういえばトウヤはこういうのが得意だったなあと思い出した。ベルは変に緊張してしまうから、どちらかというと苦手なタイプだと思うけれど、そこは持ち前の明るさとあの天然っぷりがカバーしているのだろう。チェレンは…あまり得意じゃないだろうな、と思ってあたしはちいさく笑いを溢した。
どうやらまだ時間がかかりそうなので、暇潰しに一人で校内を探索することにした。

あたしたち一年の教室は一階にあり、学年が上がるごとに階も上がってゆく仕組みだ。今日は入学式だけで上級生も授業はないため、上の階からは笑い声が聞こえてくる。入学初日から上級生の中に飛び込んでいきたい訳ではないので、あたしはその階段を通り過ぎて特別教室の入っている棟へと進む。一番端に被服室が見え、隣には第一社会科室があった。その先にも同じような教室が続いているようで、あまり面白そうなものがなさそうなことにがっかりしたあたしは、自分のクラスに戻ろうと踏み出した足をぴたりと止めた。

「……?」

クラスの窓からは見えなかったが、どうやら校舎の裏には池と小さな花壇があるらしく、池には大きい金魚なのか小さな鯉なのかよく分からない魚が泳いでいた。しかし、あたしの目にとまったのはその池でも花壇でもなく、そこに座り込んだ綺麗な黄緑色の髪をした男子生徒だった。ちらりと見えたネクタイの色があたしと同じ赤だったことから考えるに一年生のはずなのだが、どう見ても年上にしか見えない。ただ、それは整った顔立ちと身長、体格からそう感じただけであって、池の魚に餌をやりながら笑いかける彼の顔は、純粋で屈託のない子供のそれだった。

何故だか彼から目が離せずにいたあたしの意識は、キーンコーンカーンコーン、と鳴り響いたチャイムに呼び戻された。はっとして廊下の時計を見上げると、探索を開始してから15分が経過していた。流石にA組も終わっているだろうと小走りで一年の教室が並ぶ廊下へと戻ると、E組の前でベルがうろうろしていた。

「ベル!」
「あっ、トウコ!よかった、カバンないから帰っちゃったかと思ったよぉ」
「ごめんごめん、ちょっと校内探索してた」
「なにか面白そうなものあった?」
「うーん…特には」
「そっかあ。それじゃ帰ろ。トウヤ達は下駄箱で待ってるって」

笑顔のベルに続いて教室脇の階段をトントン、と降りながら、あたしは先程の男の子のことを考えていた。彼は新入生のはずなのに、どうしてあんな所にいたんだろう。彼は、誰なんだろう。考え出すと止まらなくて、疑問は次々に沸いてきた。下駄箱に着く頃には、あたしの脳内は彼のことで占められていた。
此方に向かって手を挙げているトウヤと隣のチェレンを視界に入れながら、あたしは明日、あの場所を訪れてみようと心に決めていた。

―――
タイトル→ラダ
(110227)

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