BW幼なじみ組とN
現ぱろ

「あたしめんたいこスパゲッティ」
「俺和風きのこハンバーグ」
「あたしはねー海鮮ドリア!」
「じゃあ僕はマルゲリータピザかな」
「Nくんは?」
「ええっとボクは…」
「わかった。Nはイカスミスパゲッティね」
「えっ」
「それと、ドリンクバー五つお願いしまーす」

Nの言葉を遮るようにしてイカスミスパゲッティを頼んだトウコは、俺たちに何がいいか聞いてから、Nの腕を引っ張りながら飲み物を取りに行った。チェレンが自分も、と立ち上がろうとしたけれど、何やら慌てた様子のベルによって阻まれた。

「トウコとNくんに任せておけば大丈夫だと思う!」

いつもより声のトーンが高いところを聞く限り、多分あの二人の仲をどうにかしたいって魂胆なんだろうけど、ベルの思う通りに何らかの進展があるとは思えない。

「それよりさぁ、お昼食べ終わったらどうする?あたしカラオケいきたい!」
「そんならゲーセンにしねえ?新しいの入ったらしいぜ!」
「えーっ、やだぁ!ゲーセン行くとトウヤずっと音ゲーやってるじゃん」
「なんだよゲーセンって言ったら音ゲーだろー。あとガンゲー」
「違うの!あたしがいいたいのはプリクラとか撮ろうよってこと!トウヤもチェレンもいっつも嫌がるでしょ」
「プリクラなんて男が撮るもんじゃないだろ。なあチェレン」
「僕はゲームセンター自体あまり好きではないけど、その点に関してはトウヤに賛成だね」
「むう…なによぉつまんない…トウコもあたしから誘わなきゃプリクラの機械になんて向かわないしさあ…」

ぶつぶつ、とベルが不満げに髪の毛をいじりながら呟いていると、ベルの後ろから伸びた手によってコトリ、とテーブルにオレンジジュースが置かれた。

「何の話?」
「あっトウコおかえりぃ!この後どうしようかってこと話してたの」
「トウコ持ち方…危ないよ…」

一人で三つのグラスを抱えていたらしいトウコをチェレンが注意したが、トウコの耳には最早届いていない。チェレン、哀れなり。

「えーっと、ベルがオレンジジュース、チェレンが紅茶よね。トウヤには、はいトウコブレンド」
「サンキュー!やっぱファミレス来たらコレだよなー」
「トウヤはいつもそれだよね」
「だってうまいもん!俺がやってもこの味にならないんだぜ?トウコの絶妙なバランスがいいんだよな。チェレンもベルも飲んでみればいいのに」
「ドリンクバーの飲み物というのはそれぞれで既に独立しているんだから、それを混ぜようだなんて考えるべきじゃない。僕は遠慮させてもらうね」
「あたしは前に一口貰ったけど、もともと炭酸得意じゃないから…」
「あたしだってまさかファミレス来る度に作らされるとは思ってなかったわよ…」

二人に俺の好みを否定され、トウコ本人にすら呆れられたことがどうにも納得いかないが、まあ仕方ない。人には人の好みがあると割り切って、俺は目の前のトウコブレンドを楽しもうじゃないか。そうしてストローに口をつけようとした時、Nの手の中のグラスが視界に飛び込んできた。

「あれ?Nが持ってるのって、トウコブレンドだよな?」
「うん、Nもそれがいいって言うから。あたしは味の保証はしないって言ったんだけど」

トウコは空いた掌で自分の分のグラス(色からして多分C.C.レモンだ)を受け取り、席についてから言った。Nもトウコの後に続いて座ると、ようやく口を開いた。

「だって折角トウコが作ってくれるんだろう?飲んでみたいじゃないか」

……なんつう台詞だ。口説いてるのかとすら思えたが、Nのことだ。どうせただ思ったことを口にしているだけで、深い意味はないのだろう。トウコもそれは分かっているのだろうが、やはり驚いたようで、苦笑いしながら小声で「作るって…ただ混ぜてるだけなんだから大袈裟なんじゃあ…」と呟いていた。
ベルに至っては一人で勝手に盛り上がっている。脳内ではNとトウコの恋応援団がポンポンを振っているにちがいない。Nに対するチェレンの視線がいつもより冷ややかなように見えるのは、俺の目の錯覚だということにしておこう。うん、それがいい。

「そういえば何となくNくんの髪の色に似てるよね」
「確かに。グラデーションで、色はキレイよね。色は」
「二回も言うなよ…。俺の味覚がおかしいみたいじゃんか」

心外だ、と文句を言いながらストローに口をつけて、Nの髪色に似ているというトウコブレンドを飲んだ。そう、コレコレこの味だ。薄く弾ける炭酸がたまらない。
幸せそうな俺の顔を見ても、トウコの微妙な表情は変わらない。確かにトウコとしては、いくら俺に褒められたところでNの好みにあっているかは分からないのだから、変に期待をされてしまっても困るのだろう。
言動の張本人はといえば、初めて飲むトウコブレンドに少しドキドキしつつ、ストローをくわえた。プラスチックで出来た細い管の中を、透き通った薄緑色の液体がのぼってゆく。Nの喉がごくり、と音をたててそれを嚥下した。さて、トウコブレンドはNの口にあうのやらと、四人にじいっと見つめられていたNは、「おいしい……」と一言ぽつりと呟いた。

「…ホント?」
「おいしいよトウコ!すごいね、ボクこの二つを混ぜたらおいしいなんて、知らなかった」

まさかトウコもこんな反応を返されるとは思っていなかったのだろう。Nが浮かべた笑顔にノックアウトされてしまったようで、顔を赤くして数秒固まってしまった。隣に座るベルに脇腹をつんつんとつつかれて、どうにか意識が戻ってきたらしい。

「え、そ、そう…?それなら良かっ」
「だよなあ!トウコブレンドうまいよな!うんうん、Nは話が分かる奴だ」

しかしそう簡単にトウコとNをくっつけてやる俺じゃない(だって俺はベルと何の進展もないんだぞ?)。俺はトウコの言葉を遮るようにしてばしばし!と容赦なくNの肩を叩き、Nとグラスで乾杯をした。

「ああ…っトウヤ空気よめない…」

ベルの呟きは先程から駄々漏れなのだが、気にしたら負けだと思っている。チェレンのよくやった、とでも言いたげな視線もそれはそれであまり嬉しくない。
トウコは言葉を発するタイミングを見失ってしまったのか、少し落ち込んでいるようだったが、次の瞬間Nが発した言葉によって立ち直るどころかまたしても意識が変なところへと行ってしまった。

「トウコはいいお嫁さんになれるね」

ドリンクバーのブレンドくらいでそこまで言うNもどうかと思うが、それで照れてるトウコもトウコだ。わかった、邪魔なんて意地悪しようとして悪かった。お前らいっそもう結婚しろ。

―――
タイトル→ラダ
トウコブレンド→メロンソーダ:ホワイトウォーター(カルピスで代用可)が2:8くらい
(110224)

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