||| plus alpha



姉はお節介を焼くのが好きだった。高校が終わっては、直帰せずに街をぶらぶら夜まで彷徨っている俺をよく思ってはいなかったらしい。俺が朝ぼうっとしたままの頭で家を出るときにはよく、今日ははやく帰っておいでと言った。両親は姉とは逆に放任主義で、俺が何時にどこで何をしていようが勝手にどうぞというタイプで、何をするにもやる気の出ない俺としては、あれをしろこれをしろとうるさく言われることもなく、とても楽だった。

朝食も夕食も、作るのはいつも姉だった。夜遅くまで家に帰らない俺は、両親がいつ食事をとっているのかは知らなかったけれど、興味もなかった。それよりも姉の行動の方が俺には興味深かった。誰に頼まれたわけでもないのに四人分の食事を毎日作り、掃除をし、洗濯をする。
姉が友達を家に連れてきたのも、俺の記憶ではまだ小さかったころの話だ。最近では休日ですら友達と遊んでいる様子はない。
小さな俺の手をぎゅっと握って導いていたあのきれいな指先はささくれ、肌は荒れて、あの頃の面影はなくなっていた。代わりに俺は指を誉められることが増えた。


土蔵で姉を殺した日、ようやく俺は今まで自分が探し求めていたものに気付いた。世界はなんて面白いんだろう。退屈な日々だって、ショーを楽しむためのスパイスなのだ。
だって目の前にある姉だったものは、こんなにも俺を興奮させ、楽しませてくれている。こんなにも長い間側にいたというのに、どうして俺は姉の素晴らしさにこれまで気付かなかったのだろう。

染められていないきれいな黒髪も、俺を見つめる一重の目も、ささくれた指先さえ姉という素材の良いところだ。俺の指の跡がくっきりと残る首筋の美しさといったら!白い姉の肌に映える鬱血の跡。ぞくぞくと背筋が痺れて笑みが溢れる。決して大きくはない瞳が、いつも深夜まで街をふらついている俺を諌めるように見ていた瞳が、死の間際、憎悪と絶望の色に染まったのを俺はしかと見届けたのだ。
俺のやりたいことは決まった。そうと決まれば荷造りだ。行ってみたい場所はたくさんある。

重い蔵の扉をゆっくりと開けると、冷たい風がびゅうと勢いよく吹き抜けた。一瞬、小さかった俺の手をぎゅっと握りしめていた姉の汗ばんだ手のひらの温度とか、「はやく帰っておいでね」と告げられたときの透き通った声だとかが頭の片隅を掠めたような気がした。


…と、ここまで!
雨生姉弟の独特の空気感と、綺麗には程遠いけどきちんと存在する愛がたまらなく好きです…だれか雨生姉弟恵んでください…

August 04, 2012 15:37
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