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ホワイトデー


3月22日、ホワイトデーなんてもうとっくの昔に過ぎてしまった
そんな日の午後三時


「あー・・・、無くなったったかー、遂に・・・」

お洒落な缶を逆さにして覗き込みながら、カチューシャを項垂らせたポトフが零す
すると後ろから、クスリという笑い声と上品な微笑みを揃えて真見ゆが紅茶を持ってきた

「まぁ、無くなりましたの? では、明日からのお菓子は私が買ってきますわ」


ありがとー! とテンションをあげるポトフの横を、自慢のサングラスを光らせながら、三太郎が通る

「あんなにあったのにもう食い終えるなんて、やっぱりブーちゃんはちがうな〜」

とポトフに聞こえるように大声で呟きながら
ポトフのカチューシャが不機嫌に揺れる

「・・・なによ? 喧嘩売ってるの?」

「なんだよ、事実だろ? ダイエット代わりに喧嘩してやろうか?」

座っていたソファーからばっと立ち上がるとポトフは三太郎の前に回り込んで、指を突きつけた

「あ・の・ね! 自分がバレンタインに全然<`ョコ貰えなかったからって当たらないでよね!」

うっと、痛いところを突かれた三太郎は一瞬言葉に詰まるが、お前だって全部友チョコのお返しだろ!
と切り返し二人はやんややんやと口げんかを始めた

そんな“いつもの二人”を見ながらクスリとほほ笑むと、ちょうどいいタイミング≠ナ紫陽花が帰ってきた

「おかえりなさいませ、紫陽花さん」

紫陽花に入れたてのミルクココアを渡しながら真見ゆは言った
ただいまとありがとうを伝えながら紫陽花はミルクココアを受け取ってすすった

「・・・紫陽花さんは貰ってましたよね?」
「? 何を?」

話の流れを知らない紫陽花は不思議そうに首を傾げた、そしてまたミルクココアをすする

「いやですわ、バレンタインチョコですよ」

と真見ゆが言った途端に紫陽花はミルクココアを噴出した
真見ゆは予知していたかのように横によけて躱すと後ろに居た三太郎にミルクココアがかかる
それを見てポトフはザマアミロとばかりに爆笑

「な、なんでそれを!?」

紫陽花は顔を真っ赤にしてわたわたとしながら言った

「…紫陽花さんの雰囲気を見てて思っただけですわ」

「お前隠してるつもりだったのか!? バレバレにもほどがあるぞ!」

と後ろからミルクココアを滴らせて三太郎も言う

「なんていうかバカみたいに幸せオーラ全開だったしね」

うんうんと皆して頷く

「それで、ホワイトデーのお返しには何を贈ったんですの?」


紫陽花はうつむいてぼそぼそと言った

「・・・・・・・・も」

「はぁ? マリモ?」

三太郎が眉を思いっきり寄せて言った
マリモはちょっと・・・ねぇ・・・。と女性陣は顔を見合わせて苦笑い

「違うよ! んな訳ないだろ!」

「じゃあ・・・何あげたのよ?」

腕を組んで威圧的に紫陽花に問い詰める
紫陽花はもう一度ぼそっと呟いた
今度は三人に聞こえるように


「「はあああああぁぁぁ!? なにもあげてない!!?」」

ポトフと三太郎は声を揃えて叫んだ
真見ゆもびっくりして目を丸くしている

紫陽花はコクンと頷いた

「おんまえ、せっかく女の子にチョコレートを貰えたというのにっ!!!」

紫陽花の胸元をガシッと掴みあげると三太郎はすごんだ

「いったいな、離せよ、そんでもって泣くな」

くそっ、なんでこいつは貰えて俺は・・・、などぼそぼそと泣き言を言いながら三太郎は仕方なく手を離す
紫陽花は乱れた服装を直すとほっと息をついた

「でも、あんなに幸せそうでしたのにどうしてお返ししませんの?」

真見ゆが少し心配そうに紫陽花に聞いた

「・・・だからだよ」

「だからって? どういう意味よ?」

紫陽花は視線を少し下にさげた、いや無意識に下がっていた

「俺は、ケセラを幸せにできる自信がない」

ポトフと真見ゆは2人してきょとんとした顔で目を合わせた

「幸せにできる」
「自信がない・・・ですか?」

紫陽花は二人の方に顔を向けた、今度は意識的に

「だってそうだろ? 俺はあんなに幸せなになれるようなもの≠貰っといて、ケセラには幸せじゃないものをあげるなんて、不公平だろ!?」

「だから、俺はケセラを幸せにするものをあげたい・・・、だけど、それが何かわかんないんだ」

「「・・・そういう意味」でしたのね」

そう呟く二人に今度は紫陽花がきょとんとする

「では、なにが欲しいのか本人に直接聞いてみるといいですわ」
真見ゆは手を合わせると微笑みながら言った
ポトフも頷く

「でも、そんなの贈り物として反則じゃないの?」

という紫陽花に対して、ビシッと人差し指を突きつけて、バシッとポトフは言った

「バレンタインのお返しをしないことの方がよっぽどは・ん・そ・くよ!!!」


それもそうだけど・・・、と紫陽花はまだすっきりしない様子だ
そんな紫陽花に真見ゆは優しく微笑みながら

「紫陽花さん、一番大切なのは気持ちですよ 紫陽花さんのその気持ちならば、全然問題ありませんわ」

ね? と説くと紫陽花も渋々といった様子ではあるが頷いた

ポトフと真見ゆはそんな紫陽花を見て顔を見合わせて微笑んだ



『ここですね』


「? 今なんか人の声がしなかったか?」

部屋の隅でいじけていた三太郎が女の人らしき声に反応して他の三人に言った

「さあ? 聞こえなかったけど・・・、外じゃないの?」

ポトフは顎でクイッと扉の方をさす
三太郎は外に誰が居るのかの確認の為にのぞき穴を見た

とその瞬間に扉が勢い良く開いた
扉の前に居た三太郎は顔面強打+弾き飛ばされた


「「ゴメーンクーダサーイ!!!」」


開いた扉の外に立っていたのは、鏡合わせのようにそっくりな2人の少年と


「この地域にはホワイトデーという習慣はないんですか? それともただのボケですか?」


オレンジ色のおさげの女の子


ケセラだった



―――――――



取り敢えず、ケセラ達を中に通すとソファーをすすめて温かい飲み物を出した


「「アリガトー」」

「ありがとうございます。もう春で温かい中歩いてきて少し熱いくらいなのに温かい飲み物を下さって」


会って早々に毒を吐くが皆今はそんなことどうでもいいらしく、この子が紫陽花のねー・・・、といった感じである


「今日は一体どのようなご用件でいらしたんですの?」

真見ゆはリンゴジュースをグラスに注いで、ケセラに差し出しながら聞いた

「オカシモライニキタヨー」「リンゴジュースノミタイナー」

真見ゆは二人にもリンゴジュースをあげた

「2人の言うようにホワイトデーのお返しを貰いに来ました、紫陽花君にまだ貰ってないので」


ケセラの言葉がうっと紫陽花の胸に刺さる



パンと真見ゆは手を合わせたみんなの視線が真見ゆに集まる


「夕食の後に食べようと思って買っていたケーキがありますの、それを皆で食べましょう」

「ケーキダッテサ、ロク」「ヤッタネ、シキ」
「いいですね、甘いものは嫌いじゃないです」

とシキロクもケセラも頷いた
しかし、真見ゆは首を振ると言った

「これは尋ねてくれたことへの歓迎プレゼントですわ、ケセラさんは紫陽花さんと街にいって、欲しいものを買ってもらってきてください」

「「!?」」

と紫陽花とケセラは2人して驚く
紫陽花は早くも顔が真っ赤である
ケセラは少し動揺して、シキとロクも行こうよと二人を誘ったが、ケーキという魅力に引き寄せられている二人はついてこないらしい

「まぁ、二人で行ってきた方がいろいろ見やすいだろうし、この子たちはちゃんとあずかっとくから心配しなくていいよ!」

ぽんと胸を打ちながらポトフがケセラに言った
ケセラは、仕方なく頷くと、よろしくお願いしますと言った

「では、2人ともいってらっしゃいませ」
「少しくらい遅くなってもちゃんとケーキは取っといてあげるよー!!」
「「イッテラッシャーイ」」



といった感じで見送られ、2人は外に出る

後ろで扉がパタンと閉まる



「・・・ケセラはどんなのが欲しい?」

紫陽花は前を向いたまま言った

「まずはケーキが欲しいですね、名前を出されると食べたくなりました」

「え? 帰ったらたべるのに?」

ケセラの答えに驚いてケセラの方を向く

「シキくんとロクくんが居るのに残ると思いますか?」

ケセラは前を向いたまま
そして歩き出した、紫陽花もケセラに続く

「・・・確かに、ていうか“まず”ってどういうこと!?」

そういうと、ケセラはくるりと紫陽花の方を向いた
2人の目が合う


「知らないんですか? ホワイトデーに贈るお返しは、バレンタインの三倍返しなんですよ? だから“まず”です」


そして不敵な微笑みを浮かべた
そんなケセラに向かって、紫陽花は無意識のうちにぽつりと零した

「だったら、ケセラとたくさん一緒に居れるね」


紫陽花のその言葉に、ケセラの顔は急激に真っ赤になった
それを見て紫陽花も自分の言ったことを理解し顔が真っ赤になる

しばらく2人して真っ赤な顔を隠すように下を向いていたが、やがて可笑しくなって2人してクスリと笑った

紫陽花はケセラの手を取ると
「“まず”はケーキだっけ?」
と言って、この街一番のケーキ屋さんを目指して歩き出した


2人の手はまだ、友達つなぎ

じゃあ、二人の心は?



=======



+小話(会話文)
〜紫陽花とケセラちゃんが出て行った後の事務所〜

真「幸せなになれるようなもの≠チて言うよりも、ケセラさんに貰ったから幸せになってるんだってことに紫陽花さんは気付いてないみたいですわね」

ポ「無自覚片思いってやつね・・」

真「バレンタインのときはいつもすまし顔な紫陽花さんが常にニコニコしていて…」

サ「正直キモかったな」

ポ「ケセラちゃんだっけ? あの子紫陽花があんなあからさまなのに気付かないのかな?」

サ「気付くだろ、あれは絶対にわかるだろ」

真「でも、見た感じ気付いてないようでしたわ」

ポ「似たもの同士だったりして・・・」

サ「だとしたら随分先の長い話になるな」

シキロク「「ゴチソーサマデシター」」

ポサ「「!?」」

シキロク「オイシカッタネー、ロク」「ウン、モウオナカイッパイ」

真「・・・ごめんなさい、紫陽花さんとケセラさんの分先に取っておくべきでしたわ」

ポ「その前にあたしたちも食べれてないし!」

サ「なんて早食いかつ大食い・・・」






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