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バレンタイン


俺は正直いうと、甘いものは好きじゃない

といって嫌いな訳でもないから、貰えば食べる

バレンタインのチョコは貰えればそりゃ俺も男だし、嬉しいよ?



でも、どうせならバレンタインにプレゼントするものをチョコじゃないもの...というか、甘くないものにしてほしい…

そもそも恋だって、甘いもんじゃないわけだしさ…



―――――――



バレンタイン5日前の駅

普段よりも更に多くの女の子たちがそこにはひしめいていた
女の子達はちらちらと環やユルビス、はたまた円を見ている
何かの機会を伺っているようだ…

環もユルビスも女の子達の大体の用件は予想出来た
普段であれば、ユルビスなんかは嬉々として向かっているのだろうが、今はもうチョコはこりごりだった
悪いとは思いながらも2人は気付かないフリをする


「皆さんどうかしたんですか?」

しかし、ミスター優男(+鈍感)は女の子達に今更気付き
優しく声をかけてしまった

女の子達は今だ、とばかりに声を揃えて言った

「皆さんチョコはお好きですかっ?」



結局3人はバレンタインに大量のチョコレートを頂けることとなった…



―――――――



ふぅ、と息を吐き出して帰り道を歩く
吐き出された息は途端に白い色を付け、消えていった

駅員達の暮らしているアパートは、男女では階が異なっており上が女性、下が男性となっている
そしてエレベーター、階段ともにパスワードを入力しなければ女性用のフロアには行けない

しかし、男性用のフロアにはパスワードも何もないので、女性達は好きに入って来れるのである



(…この時期になると大概居るからなー)

去年なんかは家の前に10人ほど女の子の駅員さんが居て、質問責めにされたのだった
その翌日には疲れが抜けずに円に大分迷惑をかけた



チーン


エレベーターが環の部屋の階に着いた
それなりに覚悟を決めてから行く



しかし、部屋の前にたくさんの人の群はなく、代わりに1人の女の子が扉にもたれてしゃがんでいた

「…プラグ?」

呼びかけても反応がない
えっ!?と思い触れてみるとかなり冷たい
長い間ここに居たのだろう

(とにかく暖めないと…)

あたふたしながら、ポッケを探り鍵を取り出す
しかし、慌てていた為手のひらから鍵が落ちる
さっと手を伸ばすと、プラグの冷たい手と重なった
えっとプラグの方をみると、ニヤリと笑うプラグ

「環くん慌てすぎ!ドッキリでした〜」

と言ってケラケラと笑い出す
環は安心からか、ペタッと座り込んだ

「はぁ、良かったー…」

もらすようにそう言うと、プラグが、あたしこんくらいの寒さなら全然ヘーキだよ!と言って環の手を取った

プラグの手を取って立ち上がると、プラグの右頬が赤いのに気が付いた


「お前、その頬どうしたんだよ?」

環が気になってサラッと尋ねる
プラグはビクッとなる

「あぁ、これ? これは…ちょっと叩かれちゃって」

「誰に?」

「…知らない子たち」

“子たち”、言い方から複数の女の子と思われた、そして環には思い当たる人たちが居た

「駅員の子? でもなんで?」

ガチャリと鍵があく
ドアを開けて中に入る


「あたしが恋の邪魔したから…」


え? となって環は顔が赤くなる
しかし、玄関には夕日が仄かに差し込むだけで、プラグからはわからなかっただろう


「最近バトルの挑戦者が増えてきて大変だって言ってたでしょ? だから、ご飯でも作ってあげられたらなって思って来たんだけど…」


そこに10人ほどの女の子が居た
プラグは、環くんは今忙しくて疲れてるだろうからまた今度にしてよ…ね? と優しく言った

しかし、逆ギレした女の子の1人に叩かれたらしい
周りの子たちは叩いた子をなだめると、いそいそと帰っていった
何人かは口々に嫌みを残して…


「あはは、責めないであげてね…あの子たちも必死なだけだし」

そう呟いて、少し暗くなってしまったのを気にして、つとめて明るく

「今日の晩ご飯は環くん好みの激辛バナバヤーユだよ!」

と言うプラグ
叩かれたうえに、酷いことも言われた、なのにその子たちをかばうプラグ
俺のことをちゃんと気遣って、甘いものじゃなく辛いものをくれるプラグ



「キッチン借りる…ね?」

環はキッチンに行こうとするプラグを後ろから抱き留めた


「…た、環くん?」

プラグはいつもはこんなことしない環なので、焦る
心拍数も急上昇



ぎゅっと抱きしめている腕に力を込める



「プラグ、俺の彼女になってよ…」


環はプラグの耳元で耐えられなくなった気持ちを吐き出した
震える小さな声で…



―――――――



夕日も落ちていって、薄暗くなった室内には、普段のとはまた違う沈黙がおりていた


プラグはただ固まってしまっている

「…ごめん、急に変なこと言って」

そう言うと、環はプラグから手を放した
するりと抜けるとプラグは環の方を向いた
影になって顔がよく見えない

「ほんと?」

プラグは小さな声で、しかしはっきりと尋ねた

「あたしが好きなの?」



環はしっかりと頷いた


「もう、ただ友達なんて嫌だ…」

夕日の残り少ない光が環を優しく照らす

「…怖いんだ、いつかプラグに好きなやつが出来るんじゃないかって」

目元に一粒の光が伝う
そっと白くて綺麗な指が光を拭う
その手を環は上から包んだ

「環くん、あたしもう好きな人いるよ…」

もう一方の手で玄関の方を指す
プラグの人差し指の先には、目を丸くした環

「あたし、好きでもない人のためにほぼ毎日ご飯作りに来たりしないよ!」

プラグは反面にこやかだ
環は手で目を覆い、壁にもたれズルズルとしゃがみこんで行く
プラグもくっくっくと笑いながら環の前に座る


「何笑ってんの?」

環は指の隙間から目をのぞかせて言った
プラグは顔を上げて環を見た

「だって、あまりにも速効だから」

そしてまた笑う
環は首を捻る

「昨日ね、流れ星に環くんの彼女にして下さいってお願いしたの…でもまさか叶うなんてね…」

「環くんモテるじゃない? それに優しいし…かっこい」
「もういいよ」





「それ以上は何も…何も言わないで」

プラグの口を環は手で押さえた
薄暗くてもわかるくらいに顔が真っ赤だ


プラグはにっこり微笑んで
そのまま環に抱きついた





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