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バレンタイン


―円宅にてバレンタイン一週間前―

ガランガガガ、ガシャカシャー…、ガッシャーッン!!!


「こーんにちはー」

扉を開けてユルビスが大きく挨拶をする
後ろからぺこりと頭を下げて、環が入る

ユルビスと環は電話で円に呼ばれて、円宅に来た

「円さーんなんかうちん中リフォームでもしてんの?」

片耳を手で塞ぎながらユルビスが尋ねる

「いやー、メグちゃんがチョコ作っててね」

円はいつもの穏やかな微笑みを浮かべる
環が後ろで、やっぱりかとため息を漏らした

「まじ!?もしかしてメグちゃん俺のために…!!!」

「…違うよ、彼氏のだよ」

環がサラッと言う
ユルビスは持っていた鞄をゴトリと落とした
口がポカーンと開いている


「え?メグちゃん彼氏出来たの!?」

円がえ?となる

「あれ?ユルビスくん知らなかったの?メグちゃん彼氏いるよ…」

「一年前からな、ちょうど5日が記念日だったかな」

環が円の説明に付け足す


「そんな!?メグちゃん俺のこと好きだと思ってたのに!!!」

「それはないだろ」

間髪を入れずに環はツッコミをいれる
円は、はははと曖昧に笑っている


ううぅ、とうなだれるユルビス
そのユルビスの肩に環は手を置く

「それぐらいで落ち込むようじゃ今日をやりきれないぞ…」

えっ?と環の顔を見ると、かなり難しい顔をしていた
まさに苦虫を噛み潰したような顔だった

円さんの顔を見ると、円さんも心無しか顔を暗くしている


カタカタカタターン、ガシャッ、ガッシャン………


「……き、きたな」

ごくり、と円と環は喉を鳴らした



「へ?」



バンっと台所の扉が開くと、白いふりっふりのエプロンを付けた巡がチョコだらけになって出てきた

「お待たせ円さんっ!!! あれ?環くんにユルビスも??」

手には、大量のチョコと思われなくもない物体がのったプレート

「せっかくメグちゃんがチョコを作ってくれるんだから、みんなで食べようと思って呼んだんだよ」

円はプレートの上の物をみながらも、頑張っていつもどおりの微笑みを浮かべた


「え?チョコ…?ダークm」

ばっと環がユルビスの口を塞ぐ
そのまま、飲み物持ってくるな、と巡と入れ替わりで台所にいく


「いいか、これから俺たちはあのチョコとは言えないものを可能な限りチョコに近づけるべく、毒味をしてアドバイスをする、…でも決してダークマターだとか直接的な言い方はしちゃいけない」



「…なんで?」


ユルビスと環は息を詰める
重たい沈黙が流れる


「…メグは否定されることにトラウマがあるから」

「と・に・か・く!!!メグへのアドバイスはやんわりとな!」


環は一瞬落ちた影を振り払うように語気を強めた
ユルビスも何となくではあるが巡の過去を知っているのでそれ以上は追求しなかった

「よし、戻ろう! 円さん1人じゃ大変だろうし…、でも今年は三人だから去年よりは楽だな…」

にっとユルビスに微笑んだ
環はそのまま台所のドアノブに手をかけた

「環くん!どうしよう…円さんが寝ちゃった!!」

円はテーブルに突っ伏して顔を赤らめ、安らかにおやすみなさっている…

「…な…んで?」

「このチョコお酒多めに作ってみたんだけど…、円さんお酒弱いから」


巡はパタパタと自室に戻ると、ガウンを持ってきて円にかけた

「大人向けに、苦めでお酒多めにしたのはダメだったかなー‥」


巡は少しシュンとして俯く





「いんや悪くないんじゃん?ただ見た目はもっとメグちゃんみたいに可愛くするべきだよ」

モグモギュと口一杯にチョコを詰め込んで、若干涙目でユルビスは言った

「中に入ってるナッツが少し固いからアーモンドとかにしたらいいんじゃない?」

環もテーブルの上のチョコを、手に取りながら言う


巡は2人を交互に見る


「「次の早く持ってきなよ」」



2人は優しく微笑んだ



「うんっ!!!」

と巡はいつもの明るさで言った



―――――――





「出来たー!」

綺麗なハート型のブラウニーが1つ
テーブルの上で包装を待っている

「…お疲れ様、メグちゃん後は渡すだけだね」

「待って見ないで!!! …メッセージはチョロくんにだけ」

顔をほんのりと赤くする巡
それを見て円は優しく微笑んだ

「メグちゃんが幸せそうで何よりです」

「円さん…」


たたっと駆け寄るとぎゅっと抱き付いた
円はそんな巡を優しく抱き留めた

「ありがとう、円さん…」


「チョロくんに喜んで貰えるといいですね」

そう円が言うと、巡は満面の笑みで微笑んで、うんっと頷いた





―――――――





チョロくんへのメッセージを考える巡を台所に残して、円は居間に戻った

「…お二人とも大丈夫ですか?」


環とユルビスは数え切れないくらいの、巡の“失敗作”を食べてダウンしている
甘い物は一週間くらいもうごめんな感じだ


「…去年よりはまだまし」

「予想以上ッスよ」


でも、巡の完成したときのうれしそうな顔をみたら、まぁいいかなって思えた


「うまくいくといいッスね」





―――――――





そして、バレンタイン当日

いつもは毎週日曜日にしか行かない、行きつけのカフェ


巡は可愛くラッピングしたチョコレートを大事に大事に抱えて、そのカフェを目指す

待ち合わせは13時
今は10時


(いくらなんでも早すぎたかな…)



カランカラーンとカフェの扉のベルが鳴る

しかし、シーンとしていて誰もいない
店員の姿さえない


「あれ、今日って休業日?」

(でも、鍵は開いてるし…)


巡は辺りをキョロキョロと見渡した
しかし、誰もいない…



「ハッピーバレンタイン、メグちゃん」

急に背後から耳元にささやき声
わっ!!! と驚いて巡はチョコを持った手を離してしまう
が、チョロは予測していたようにそのチョコを受け止めた


丁度巡を後ろから囲んで…


「まだ3時間も前なのに…どうして…?」

巡は急に現れたチョロにビックリして、ドキドキしているのを必死に抑えて言った

「それはメグちゃんもですよぉ?」

「あ、あたしは時計が壊れちゃってて…」


あたふたとすぐに嘘だとばれるような言い訳


「そうなんですか? 私はメグに会いたくて早く来たんですけどねぇ」

普段の口調でサラッと言いながら、チョロは巡の頭にあごをのせる


すると巡はぐるっと勢いよく後ろを振り返って、チョロを睨みつけた

「そんなことサラッと言って、ズルいよ!! あたしばっかりドキドキしてる!」


巡はぷぅと頬をふくらまし、両手でチョロくんの頬を挟む
少し背伸びして、噛みつくようにキスをした





「今日はチョロくんにドキドキしてもらうから! 覚悟してよね」

そう頬を染めて言う彼女





「すみません、メグ…もうドキドキしちゃってます」


そういうと、今度はチョロから優しくキスをした
それはきっと、
チョコよりも甘いくちどけで










“大好きだからこれからも一緒に居てね byメグ”


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