log1 | ナノ

羽子板大会!


空は清清しく、見ていると心が浄化されるようだ。
そんな空に、一つの黒い点。
それは徐々に高度を下げ、落ちてくる。
先っぽに黒い玉。
それを、彼女、寵架は思い切り持っていた羽子板で打ち返した。
とても女性とは思えない腕力から飛び出した羽は相手側にいた彼へ、ガブへと向かっていく。
遊びと呼べるレベルではなかった。

それほどまでに寵架とガブは真剣になりすぎている。
それをベンチに座りながら梳葉とジェミニが作ってくれた弁当を口に運びながら見ていた。
左から夜一、マラ、赤丸、クラヴィンが座っている。
ここはある広場。
そこで、今しがた羽子板大会をしている。
とはいっても、小規模な大会だ。
今はこの人数しかいないが、後からルーンと梳葉が来ることになっている。

試合は今、寵架とガブの男女対抗になっている。
女性軍と男性軍でチームを組んで、それぞれ先に三勝したほうが優勝ということになっている。
ただ、人数が男性軍のほうが多いのだが、いかんせん梳葉と寵架が強いと聞いて、ハンデということでこのまま進んだ。
まだ一回戦なのだが、白熱、というか真剣すぎて先ほどからまったく両者、羽を落としていない。
「なかなか……やるのねッ!」
カーンッといい音を響かせながら、打ち返す。
ガブも口元を吊り上げながら挑発めいた言葉を発する。
「ギブアップしてもいいんだぜ?」
「あら……本気出していいのね?」
スゥ、と目を細めてクルリと羽子板を回して、眼差しを鋭くさせた。
瞬間、空気が変わった。
それを感じ取ったガブも笑みを引っ込ませて表情を戻す。

打ち返す音が聞こえたが、羽が見えなかった。
ガブは頬に何かが掠めるのを感じる。
反射的に後ろを振り返ると、羽が転がっているのが見えた。
目を見開いて驚いているガブに、寵架は優雅な仕草でお辞儀をした。
「お相手、ありがとうございました」
振り返ったガブの表情は唖然としていた。

そんな彼にクス、と笑いを零しながら女性軍が集まっているベンチへと戻っていった。
キラキラと目を輝かせながら、夜一が寵架の手をがっしりと掴んだ。
「すごいです!寵架さん強い!」
「ありがと、夜一さん」
「アンタ……大人気ない」
マラが呆れた眼差しを寵架に向けるが、彼女はニコリと笑みを浮かべただけだった。

一方、肩をガックリと落としながら男性軍のベンチに戻っていったガブ。
溜め息を吐き出しながら、座り込む。
そんな彼にクラヴィンは声をかけた。
「寵架を本気にさせたからいけないんだよ。弱いじゃないか」
冷たい言葉が飛んできて、見えない槍でガブを貫く。
落ち込んでいるガブの肩に誰かの手が乗っかった。

見上げると、短い水色のローブを羽織った青髪の青年が苦笑を浮かべていた。
「ごめんなさい。クラヴィン!もっとほかに言うことあるんじゃないの?」
「ないよ」
「もう……ガブさん、本当にごめんなさい」
「いや、いいよ別に」
苦笑を浮かべながら、ガブは手を振る。
赤丸がガブの背中を叩きながら慰めた。
「大体、ルーンは優しすぎ」

「クラヴィンはもっと他人を気遣ったほうがいいよ?」
「女性限定で」
肩を竦めながら、クラヴィンは持っていたペットボトルのキャップを捻り、お茶を喉に流し込んだ。
相変わらずだな、とガブはチラリとクラヴィンを横目で見て、自分もペットボトルを手に取った。
ルーンと呼ばれた青年はローブを取りながらガブの隣に腰を降ろした。

次はクラヴィンと夜一の戦いである。
「クラヴィンさーん!次ですよー!」
「わかってるよ、夜一さん」
先ほどまでの冷酷な笑みは何処にいったのだ。
そんな突込みをしたくなるほどに、今夜一に向けてる笑顔は爽やかだった。
ルーン、マラ、そしてガブはそんな彼に冷たい眼差しを向けるが、気づいてはいるだろうが流している。

夜一とクラヴィンの戦いはまるで親子で仲良く羽子板を楽しんでいるかのようだった。
「クラヴィンさんお上手ですー!」
「ありがとう、夜一さんも上手ですよ」
何だかんだで会話をしていると、クラヴィンは彼女に気付かれないようにわざと羽を落とす。
これで女性軍が二勝。
ピョンピョンと飛び跳ねながら夜一は戻っていく。
彼も短く息を吐き出しながらベンチへと。

「アンタ、何で負けたんだ?」
「勝ちを譲っただけだよ」
乱れた髪を結い直しながら、クラヴィンは言った。
この後も次々に試合は展開され__
赤丸 VS マラ 勝者、赤丸
梳葉 VS ルーン 勝者、梳葉
と、この様に女性軍が勝ちあがった。
この結果に異論はなかったものの、ガブは一つだけどうしても納得いかないものがあった。
「俺と勝負だ」

羽子板を差し出しながら、ガブはクラヴィンへと挑戦状を叩きつけていた。
彼は読んでいた文庫本を閉じ、目を細めた。
「へぇ……?いいよ」
やけに自信ありげな表情にガブは僅かに首をかしげた。
てっきり、めんどくさい、などの一言で断られるものだと思っていたのだ。
クラヴィンはガブから羽子板を受け取ると、地面に落ちていた羽を拾い上げる。

間髪いれずにそれを打った。
ガブは容赦なく打ち返した。
かなりいい具合に打てたことに、内心ガッツポーズをするが、それを難なく打ち返したクラヴィン。
これは、寵架とやった試合よりも白熱しそうだ。
ベンチにいた全員が思った。
*
「はーい、ガブの勝ちー」
寵架が凛とした声音で言い放った。
猛スピードで飛んできた羽をクラヴィンがよけ、試合終了。ガブは満足そうな笑みを浮かべてペットボトルの中に入っていたお茶を一気に煽った。
肩を竦めながら、クラヴィンはベンチへと腰を降ろす。
「クラヴィン!」
「何だい?」
「すまねぇな、ガブの奴が」
赤丸が声を潜めてクラヴィンに耳打ちをする。
「別に、彼も満足したみたいだし」
「……お前、見かけによらず優しいんだな」
意外そうに赤丸は言った。

別に、と微笑を浮かべながらクラヴィンは文庫本を開いた。
ニカッ、と笑みを浮かべながら赤丸は彼の隣に座った。
何だかんだで、皆との距離が縮まったような……気がする。


back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -