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拠り所




問い:円が円でなくなるところはどこか?

円でないことの定義は、普段そばにいる大勢の人たちが知る円とは異なっていることとする
また、普段の円の参考として、身近な人たちの意見を述べる

「円さん? すんごく優しくて大人でおっとりしてるよ! あんなお母さんになりたいかな」
「円さんは仕事も完璧にこなしてるし、人望も厚くってほんとこうなりたいと思わせるような理想の大人だよ」
「女の人みたいな柔らかな雰囲気でさー、でも芯? みたいなのは強くってさ、泣き言とか愚痴とか言ってんの見たこと無いよ、きっと誰もね」



―――――――



パタパタと、駅長室にいる円の元に、たくさんの人が訪れる


「円さん!今日あたし何したらいい?」
「円さん、書類まとめてきたんで、ここ置いとくね」
「まーどーかさ〜ん、ちょっとだけ抜けたいんだけどいいかな?」



ニコニコしてみんなの相手をする円
みんなは心から円を信頼し、円に寄りかかっている

頼られるのは、正直嬉しいし、みんなのことも大好きだ



でも、





時々、すごく疲れる…



―――――――



1人で、駅の周りを見回る円は無意識のうちにため息をついた
吐き出した空気が当たりを巻き込んで白く凍る


「そんな肩落として、ため息までついてどうしたんじゃ?」

急に横からひょいっと出て来たのは、唯一円が頼る側になれる友人の紅陽だった
円は紅陽の顔をみると、ふっと疲れが飛んでいくのを感じた
と同時に無性に泣きたくなった

安心からなのか、
それとも、求めているのか
助けを



「いえ、なんでもないですよ…紅陽さんこそどうしたんですか?」


溢れ出そうになる、涙や諸々を抑えて、そう紅陽に向かって尋ねると、ポリポリと頬をかきながら

「お前さんは1人で色々と抱え込んでしまうところがあるから心配でのぅ」

そう照れくさそうに円にいう
そして
それだけじゃけ、と帰ろうとする

その言葉に円の中のストッパーがきれた
その袖をさっと掴むと、円はにっこりと泣き笑いのような顔で微笑んだ


「帰しませんよ、…本当は聞いてほしい話がたくさんあります」



(彼の前では強がらなくていい)



そう思えた


前を向いたまま、円の方を振り返らずに紅陽は口角をあげた


「あっついお茶を用意してくれるんやろうのぅ?」

そう言って振り返ると、紅陽以外の人が目にすることはない
子供のような満面の笑みを浮かべた円がいた





円が円でないところ
=紅陽のとなり



円はそこでは、無力な1人のひととなる





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