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円はみんなのお母さん!


昼下がりの、駅にいる人が最も少なくなる時間
人が少ないのだから、電車の本数も少なくなり、駅員たちはお昼休みに入る


円たちも、例外ではなくお昼休み中だった

「でねー、店員さんに高すぎでしょって言ったら、ほかの店はもっと高いですよーとか言ってねー」
「午後からの挑戦者は10人らしくて、前回大負けして暴れ出した人がいるから要注意だと思うんだけど…」
「てか、さっきの挑戦者綺麗じゃなかったスか?俺ちょっと連絡先とか聞いてこよっかな〜」

円の部下である三人は思い思いのことを一気に円に話す、円は笑顔で三人に相づちをうつ
聖徳太子のようである…、聖徳太子なんてあったことないけれど……


「円さん、ちょっと良いですか?」

駅員の1人である、こないだ加わったばかりのチュリが休憩室に入ってくると円を呼んだ
三人は残念そうにしている、特に巡はあからさまに嫌そうな顔をして不機嫌になる

「…あ、あの……えと、迷子さんです…」

巡の不機嫌なオーラに押されて、おずおずとチュリは言った


「迷子ですか? どちらにいるんです?」

この子です、とチュリは横に居たらしい男の子を招いた
そこには黒と黄色の混ざった髪に小さな耳付き王冠を被った男の子が立っていた

「あなたが迷子さんですか?」

男の子は黙って円の目を見つめ返した
ただそれだけで黙ったまま

「…お名前は?」

質問を変えてみる

「僕の名前? いずらだよ」

(いずらくんか…確かにこの辺じゃ聞かない名前だな)
など、考えながら廊下から暖かい休憩室の中にいずらを迎え入れる


「どこから来たの?」

「ひみつ」

「どうやって来たの?」

「電車」


などいくつかの質問を繰り返して、何となくではあるが、どこから来たのかがわかった

チュリが温かいココアを入れて持ってきた

「寒かったでしょう? ココア飲める?」

いずらは頷くと、マスクを外してココアを飲んだ


「おいしい? 暖まるでしょう?」

円は優しい微笑みを浮かべて、大人しく座っているいずらに話しかけた

いずらは飲み干したカップから口を離し、テーブルの上にコトッと置いた

「うーん…、不味くはないけど味が薄いよ、濃すぎるのもヤだけどさー、なんかケチっぽいんじゃない? 俺はココア水じゃなくって、ココアが飲みたいんだけど…?」


そこにいた、4人全員が目を丸くした
さっきまでと同一人物なのか? と思うほどに、喋る喋る

す、すみません…、というとチュリはテーブルの上のカップを取って給仕室に向かっていった


「さっきの質問攻めすごすぎ、ちょっと引いたよ」

はっ、と思い出したように顔を上げるといずらは更にぺらぺらと話し始めた


「引いたと言えばね、さっきホームで見たカップル…、ものすごいいちゃいちゃしててさ〜」
「あ、それあたしも見たかも! 見た感じもいまいちでー」


いずらの話に巡が横から入り込む
ぷぅと頬を膨らますいずら

円はそれに気付くと、にっこり笑って

「それで、どうしたの?」


といずらに問いかけた
今度は巡がぷぅと頬を膨らました
しかし、お昼休みが終わりを告げたため、環に背中を押されながら渋々といった感じで、巡は休憩室をあとにした


それからも、息継ぎ無しで話すいずらの話を円は相づちを入れつつ、楽しく聞いていた



―――――――



「ま〜どか〜!!!」

静かだったホーム内に明るい声が響く
黒と黄色のメッシュの髪を揺らしながら、少年は円に後ろからタックルする

円は受け止めきれずに、前のめりに倒れる
べちゃり、と聞こえてきそうなほど綺麗に押し倒された感じだ

しかし、少年は円の上に乗ったまま気にせずにすごい勢いで話し始めた
それもそのはず、こんなこと彼らが出会ってからは日常茶飯事だからである



少年の名はいずら

前にここに立ち寄ったときに円に会い
円が話をちゃんと聞いてくれるため、気に入り
それ以来ここにたびたび通っている


円も円でいずらのことを、まるで息子のように可愛がっていて、端から見た2人はまるで親子のようでもあった



―――――――



「でねー、店員さんにほかの店のが安かった! て言ったらねー、知りませんでしたとか言うの!」
「大負けして暴れ出した人、また暴れたんだけど、罰とかする…?」
「てか、さっきの挑戦者可愛くなかったスか?俺ちょっと連絡先とか聞いてこよっかな〜」
「ねぇ、あそこにある黒と黄色の標識貰っても良い?」


円の前で4人が思い思いのことを一気に話す、円は笑顔で4人に相づちをうちながら話を聞く



今日も円を中心にして
平和なトレインである



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