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一輪の花


静かな冬の夕暮れ時

川の近くの土手には、背丈の低い雑草が、下の土が見えなくなるほど生い茂っている
川以外の場所は横の道まで、一面が緑だった
しかし、いつからだったか、その殺風景な土手に似つかわしくない
薄いピンク色の可愛らしい一輪の花が、どこからともなくやって来たのだ

その花は、殺風景だった土手を幾分か華やかにした

そして、
その花が土手にやってきてしばらくしてから、一人の少女がこの土手を訪れるようになった
その少女は肩にかからないくらいの綺麗な白髪に、黒色のリボンを結っていた
しかし、その綺麗な白髪以上に印象的なのは、血のように鮮やかな赤い瞳だ



少女は度々土手を訪れては、そこに咲いたその一輪の花を愛でるわけでもなく、ただ花の横に座って、とおく川を眺めていた



―――――――



「ごちそうさまでした!」

威勢のいい掛け声とともに、川沿いにある屋台を後にする彼女の名はポトフ
一応女の子である

食べ物が大好きで、おいしいものを食べた後はかなりルンルンで、機嫌がいい
屋台で食べたオデンはとってもおいしかったため、今のポトフはかなり機嫌がいい様子だ
軽くスキップをしながら土手横の道を進んでいると、暗がりになんだか白いものがうっすらと見えた
ようく目を凝らしてみると、それは人のようだった
なんだか、気分がよかったのでポトフは思い切ってその人に近づいてみた


「こんばんは」


ポトフの着けているカチューシャが風もないのにパタパタと揺れている
きっと、ポトフがウキウキしているからだろう

その人はゆったりとした動作で、ポトフの居る背後を振り返った
何とも可愛らしい少女だった

しかし、無表情である

急に話しかけたのはまずかったかなー・・・
などと少しだけ思ったが、ポトフは基本過ぎてしまったことは気にしないタイプだ
少女に向けてニッコリとほほ笑んだ

少女はというと、さっきから左右にフワフワと舞っているリボンカチューシャを、不思議そうに見つめている


「・・・何で揺れてる?」


少女はポトフに対して尋ねるともなく呟いた

それを聞いて、ポトフは答えていいものかどうか戸惑ったが、少女は依然としてポトフの頭上を見つめているので、答えることにした

「このカチューシャは、少し不思議な力を持った友達に作ってもらったんだ」


だから、感情に合わせて揺れたりするんだっ、とにこやかに言うと、納得した様子でポトフの目元に視線を合わせた
先ほどまでよりかは、視線の位置が下がったものの、ポトフは立ち、少女は座っていたので、少女の首は少しばかり辛そうだ
ポトフはそのことに気付いた・・・わけではないが、少女の横に、あの一輪の花を挟んで座った
そうすると、少女が尋ねたわけでもないのに、カチューシャをくれた友達についてやら、日常生活についてやらを、ペラペラと話し出した
その横顔は、なんでだかとっても楽しそうだった

その後も、ずっと少女に対して返事を求めることもなく、ポトフは上機嫌で話し続けた


(よくしゃべる人だな・・・)


横目に見ながら、少女は思った
しかし、ポトフの存在も、この一方的なおしゃべりも不快ではなかった
聞くともなく聞いていると、急に彼女が話すのを止めた


「マミリンが呼んでる! もう帰らなくっちゃ」


そういうと、すくっと立ち上がって道の方まで駆けていく
道に上ると、少女の方を振り返る
土手をのぼる彼女を見ていた少女と目が合う


「色々と聞いてくれてありがとう、あたしポトフっていうの!」



そういうと、またねっと軽く手を振りながら駆けて行った


(・・またね・・・か)


少女もしばらくしてから立ち上がり、帰路についた



―――――――



次の日、土手に行くと一輪の花の横に昨日見た黒いカチューシャをした女の人が居た


(・・・ポトフさん)


視界に入ってすぐ立ち止まると、ポトフはクルッと振り返って、少女を見るとにっと笑った
その後に、薄ピンクの花を挟んで右側をポンポンと叩いた

少女は再びゆっくりと進むと、ポトフの指定したところにちょこんと座った

ポトフは少女の方を覗き込むようにして見て言った



「昨日聞きそびれちゃったんだけど、名前・・・なんていうの?」



少女は、体操座りしている腕に顔を乗っけて、少し目を伏せて言った


「・・・宵」


ポトフは宵の方から視線を前にずらして、宵ちゃんか―と呟いた
それからすぐに、また昨日のようにたわいもない話を少々一方的に宵に話しかけた



―――――――



ポトフと宵が初めて会ってからしばらくして、なんだか花を挟んでの会話が生活の一部のようになってきた頃
ポトフは何の気なしに宵に尋ねた



「宵は土手にこの花を見に来ていたの?」


宵は、言われてからその花の存在を思い出したかのように、花を見た


「そうだったかもしれない」


? とポトフはかもしれないのところに少し首を傾げた
しかし、特に気に留めはしなかった


「綺麗だと思うなら、摘んで帰ればいいのに」



宵はポトフの方を見た



「ま、出来ないか・・・可哀そうだもんね」


ポトフは言いながら、視線を花の方に向けた
宵も再び花を見る



(花を摘むことは可哀そう・・・なんだ・・)




ぱっと、顔をあげて宵の方を覗き込む
そしてまたニカッと笑う



「あたしはその方が嬉しいけどねっ!」



「どうして?」


宵は首を軽く捻る



「だって、ここに花があれば宵と会えるでしょ」




“花があれば”





(でも、土に生えた花もいずれは枯れてなくなるのに・・・)



―――――――



そしてその翌日に、突然一輪の花は土手から消えた
ただ一つの花が、無くなった
ただそれだけ
ただそれだけのはずなのに、そこは昨日までのそこと同じ場所ということが信じられないくらいに、殺風景だった


いや、一輪の花だけではなかった
もう一つ、無くなっていた
いつものあの特等席に居る、あの花の左側に居た彼女もいなくなっていた


宵は、印のなくなった土手に何の当てもなく座り込んだ
しばらく座っていたが、日が沈んでも彼女は現れなかった



―――――――



あの一輪の花が土手から消えて、宵の日課も一つ消えた
最近はずっと昼すぎには土手に行っていたので、昼過ぎが少しつまらない
しかし、一週間もたつと、そのつまらなさにも若干慣れてきた

でも、なんでだか土手に行かなきゃいけないような気がした
土手に行きたい気がした
頭の片隅に無くなったはずの薄ピンクのあの花がまだ居て、急かされている気がした

この気持ちはなんなのかがどうしてもわからなくって、宵は奏に尋ねてみた



奏は宵の話を優しく最後まで聞くと、宵に自分の考えを端的に伝えた



「それはきっと・・・そこが恋しいんじゃないですか?」



―――――――



空は、綺麗に晴れ渡っていて雲一つない
冬の晴れた空は、寒さを底上する気がする



「よっし、終わった―!!!」



土手の上に寝転んで、ポトフは大きく伸びをする
太陽の日差しが気持ちいい、風が吹くと凍えそうなほど寒いが、幸い今は風もない
雨は好きじゃないが、寒いのはまだ平気な方だ
少し動き回って程よく疲れていたポトフは、そのまま、土手で浅い眠りについた



―――



宵は奏に言われて、そうだったんだと思った
恋しかったんだ
私は、あの場所が・・・



それから、久しぶりにあの土手を目指した




土手につくと、ポトフが居た
居ないと思ってきていたから、少し驚いたのと同時に少し胸が温かくなった


しかし、様子がおかしい・・・土手に砂まみれになって横たわっている
この土手は、土が見えないくらいに雑草で生い茂っているから、ただ寝ころんだだけで、砂まみれになるわけがない


「ポトフ? 一体どうしたの・・・」


ポトフの横にしゃがんで、声をかけるポトフは宵の声に反応して、うっすらと目を覚ます


「・・・宵?」


段々と目が覚めていき、しっかりと宵を認識すると、ポトフはがばっと体を起こした


「宵!!!」


うわっと、勢いに押されて宵は若干目をぱちくりさせた
そんな宵にポトフは抱きついた


「もう、宵には会えないのかと・・・」


少し声が曇っているのは、ギューと抱きついているからか、涙を堪えているからか、またはその両方なのか・・・

ぱっと離して宵を正面から見る
なぜか顔にまで土がついている


「どうしてそんな土だらけで・・・?」


と宵はポトフの顔についた土を払いながら言った
ポトフは、え? と言って恥ずかしそうに服の袖で乱暴に顔を拭いた
しかし、袖にも土が付いていたのでまた顔に土が付いた



「花が無くなったから、宵が来なくなったんだと思って・・・花の種を埋めたの」


今度は宵が、え? となった



「今すぐには咲かないけど・・、またいつか咲くから!!!また土手に花を見に来てよ!」





「あたし、宵ともっといっぱい話したい・・一緒に居たいよっ!!!」




宵の目を正面からまっすぐに見て、ポトフはすがるように言った



「私も・・・だ」







「私は、花じゃなくて、ポトフに会いに来てたんだ」



宵もポトフの目をまっすぐに見て言った
しばらくして、二人ともなんだか照れくさくなって、俯いた


俯いてから10秒くらい経った



「ああっもう!!!!」


というと、ポトフはまた宵をギューッと抱きしめた
そして一言










「宵、大好き!!!」

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