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迷子の紫陽花


街中を、3人で歩く
四季に頼まれた物を買いに、少し遠くまで来たのだ


「ったく、なんで俺が…」

サングラスはさっきから不満をタラタラと言い合っている

「素敵な街じゃないか、僕の背景としてぴったりだよ」

アルヒは大満足そうで、気取って歩いている

「…ちょっと人多いな、はぐれたりするなよ」

紫陽花は珍しい遠出に少し不安そうである
遠出したことよりも、メンバーに不安があるのかもしれないが…



―――――――



そして案の定、3人ははぐれた

「ここどこだ…?」

アルヒ似の男に付いて行っていたら、全くの別人であり、その上、あまりの薄暗さにその別人も見失ってしまい、森の奥で迷子になってしまった

紫色の帽子の先の白い部分がフワフワと風に揺れる

辺りをキョロキョロと見渡していると、後ろから柔らかな優しい声がした

「どうかなさいましたか?」

振り返るとそこには、声通りの優しそうな緑髪の女性が立っていた

「えと…、迷子になってしまいまして…」

余りに綺麗なその人に、紫陽花は少し言葉に詰まってしまう

「まあ、街まで案内しましょうか?」

「…いいんですか?でしたら是非」グギュルギュー


・・・。


「…この近くに私のペンションがありますから、お食事でも如何ですか?」

紫陽花の言葉を遮るほどの空腹音を聞き、女性は少し先にうっすらと見えるちょこんとした可愛らしい建物を指した
紫陽花は、誘いを受けた方が失礼にならないか、断った方が礼儀正しいのか迷ったが、またお腹がものすごい音を出し、空腹に抗うことも出来ずについて行くことにした

「私の名前はティービアです、あなたは何というお名前ですか?」

「…紫陽花と言います」


それから2人はペンションを目指した



―――――――



「オ菓子マダ、ダメ?」
「早ク食ベタイヨ」

「ティービアさんがもうすぐ帰ってくるから、それまで待とうよ」

「ー…ウン」

そっくりの小さな男の子が2人、美味しそうなクッキーを目の前にして、よだれをこらえながら待っている

あまりの可愛さに、オレンジ色のおさげの女の子はくすりと微笑む


チリンチリーンと、扉のベルが鳴った

「帰ッテキタカナ!?」
「ティービアカナ!!?」

2人の少年たちは扉の方へ駆け出した



「「オカエリ、ティービア!!」」

「ただいま、シキくんロクくん」

「お帰りなさい、ティービアさん」

少し遅れておさげの女の子が入り口に来た

「ただいま、ケセラちゃん。なんだかいい香りね」


すると2人の少年たちは、ケセラの方をキラキラした瞳で振り返った

「モウイイ!?」
「タベテモイイ!?」

ケセラが頷くとパタパタと走って行った

「やっぱりお菓子を作ったのね、ちょうど良かったわ」

ティービアは微笑みながら、言った
ケセラはその言葉に首を捻る

「森で会ったの、紫陽花ちゃんよ」

外で待っていた紫陽花は、名前が呼ばれて、遠慮がちに中に入った

グーキュルー

あまりのいい香りに、口より先に、お腹がしゃべる

「ずいぶんとお喋りなお腹ですね、宜しかったらどうぞ、ティービアさんのクッキーよりは美味しいですよ」

少しきつめの言葉に紫陽花は冷や冷やしてティービアの方を見たが、ティービアは相変わらず優しげな微笑みを浮かべているうえに、

「ケセラちゃんのクッキー、ほんとに美味しいのよ」

と言ったので、紫陽花はひとまず落ち着いた



―――――――



クッキーは少年たちによって大分少なくなっていたが、少年たちは最後の何枚かを快く譲ってくれた

ケセラの方を向いて、

「頂きます」

と頭を下げる

クッキーを一つとり、口まで運んで、パクッと食べる

「………おいしい」

少ないクッキーを続けざまに口に運び、あっという間に完食

キューングギュー

とお腹がおかわりを告げる
恥ずかしさで真っ赤になった顔を隠すように俯き
お腹を押しながら、紫陽花は早口でお礼を言おうとする

「とってもおいしかったです!ご馳走さ」カタン

言葉を遮るように、前に追加のクッキーが出された

「もういらなかったですか?」

ケセラの言葉を全力で否定するべく、激しく首を横に振る、耳に付けた黄色い飾りが頬を打つ


その様子にケセラはくすりと笑った

また紫陽花は恥ずかしさに顔を赤くした



―――――――



「ご馳走様でした!ほんとにおいしかったです」

追加のクッキーを食べきり、紫陽花はケセラに全力でお礼を言った

「そう言ってくれて良かったです」


それじゃあ、と席を立ち、帰ろうとして、自分が迷子になっていたことを思い出した

辺りはもう真っ暗で、ティービアと会った所まで戻ることも困難なようだった


「…」

立ったままでいる紫陽花を見て、ティービアも思い出した様子で、ケセラに呼びかけた

「紫陽花ちゃん、道に迷ってここに来たの、街の近くまで案内してあげてくれる?」

ケセラはティービアの方を向いて頷き、コートを手に取った


「いや、道だけ教えて下さい、もう暗いし、帰りが女の子一人じゃ危ないです」

紫陽花は顔の前で手を振りながらティービアに言った

するとティービアは困ったように微笑んで、紫陽花の両手をとって言った

「それは、紫陽花ちゃんも同じよ」

いや、と反論しようとする紫陽花に

「こんな暗い中、知らない森を道を聞いただけで抜けられると思いますか?」

とケセラが言った、コートもマフラーもして準備万端なようだ

「…無理だとは思うけど」


そう紫陽花が言うと、だったら行きましょうと、ケセラは外へ出た



―――――――



夜の森はなかなかに寒い、一応冬の装いではあるが、帽子くらいしか防寒具を身に付けていない紫陽花は早くも震えだしてきた

「…はい」

そんな紫陽花に見かねたのか、ケセラは着けていたマフラーの半分を紫陽花に差し出した

「…えっ!?」

と激しく動揺し、照れる紫陽花
いいの?と尋ねると、さむいんでしょ?と言われた
でも…、と尚もモゴモゴ言う紫陽花に、普通のことでしょ!と言いながらケセラはマフラーを巻きつけた

「…ありがとう」

と照れくさそうに言うと、紫陽花は恥ずかしくてもう何も言えず、二人は無言のまましばらく歩いた



15分くらい歩いて、ようやく街の明かりが見えてきた


「もうここまでで大丈夫?」

とケセラは立ち止まり紫陽花の方に顔を向け言った

マフラーがあるので紫陽花もつられて止まる、ケセラの方を向くと思ったよりも顔が近くにあった

「だっだいじょうぶ!」

そう言うと少し顔を背けた
ケセラは少しだけ背伸びをして、紫陽花のマフラーをとる

「じゃあ気をつけてね」

そう言って森の方に戻るケセラ
紫陽花は、そのケセラの手を反射的に掴んだ
紫陽花の手の方が少し大きくて、ケセラの手はすっぽりと収まった

「えっと…、俺ケセラに会えて良かった…よ、……それじゃ気をつけて」

それだけ言うと、紫陽花は明るい街中に走り去っていった

街中の街灯に照らされて、顔は真っ赤だった


「…“俺”って?」

(男の子だったの?)


ケセラはくにゃっとしゃがみ込んだ

彼女の頬にもまた、街灯の光が当たっていた


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