幼いころ、今日の朝は毎年ワクワクしながら枕元を探ったものだ。
サンタからの贈り物を見つけて、寝間着のまま

包装を解くあの時の高揚感も、
枕元にプレゼントを置く両親の姿を目撃した時の衝撃も懐かしい。


ピピピと覚醒を促す機械音に、ふっと意識が急速に上昇する。
ギン千代が音のする方に手を伸ばせば、
ツンと冷たい空気が布団から出た腕をさす。
ふと手に触れた感触に違和感を覚え、
そちらに視線を向けると、
黄色い包装紙に赤いリボンのちいさな小包があった。
「なんだこれは」
おもむろに起き上がり、その小包を手に取ってみると、
小さなメッセージカードが一緒に添えられて居ることに気づいた。

―メリー・クリスマス。
   お前のサンタより―


「あいつ…」
その小包を置いた人物が容易に思い当たり、
小さく笑みがこぼれた。
ゆっくりとリボンをほどき、包装をはがしていく。
25日の朝の懐かしい感覚。
すべて解いて出てきたのは、ビロードの箱。
何が入ってるか開けなくてもわかるそれに、
ギン千代の柄にもなく心が高鳴るった。
幼馴染が婚約者に変わったのは去年の夏。
物思いに耽るギン千代の耳にノックの音とともに、
今まさに思い浮かべていた人物の声が届いた。
「ギン千代、起きてるか?」
ギン千代が返答する前にドアが開く。
入ってきたその人物は、
ギン千代の手に包まれているものを見てニヤリと笑った。
「貴様、勝手に入ってくるなといつも……」
「気に入ったか?」
人の話などまるで聞いていないような宗茂に、
眉を潜めるも、彼は全く気にせず近づいてくる。
そっとベッドに腰掛け、ギン千代の腰に手を回す。
「まだ見てないが……?」
「なら見てくれ。なんなら俺がつけてやろう。
ほら、左手をだせ」
宗茂は箱を奪うと、
中から淡いピンクの石がついた指輪を取り出し、
彼女の手を取る。
薬指にぴったりと嵌るそれを、
ギン千代はまじまじと見つめる。
それが何を意味するのかはギン千代でもわかるが、
いまいち実感が沸かない。
「ギン千代」
呼びかけられた声にゆっくりと顔をあげた彼女の目に映ったのは、
いつもの飄々とした顔ではなく、
真剣な眼差しで見つめてくる宗茂だった。
「な、なんだ……」
普段見ない姿に、ギン千代はわずかに狼狽する。
そんな彼女の様子など気にせず、宗茂は続けた。
「俺と結婚してくれ、ギン千代。
まぁ返事はわかりきっているが……」
言いながら、指輪の嵌った指に口付ける、
気障な仕草に、ギン千代の頬は一気に染まった。
真剣な、しかしどこか自信に溢れた表情で見つめてくる宗茂に、
照れを隠すように彼の手を振りほどく。
「今更ではないか……!そんなこと……」
口付けられた手をもう片方の手で隠し、
俯いたところで、ギン千代は自分がまだ寝間着のままだったことに気付き、
今度は勢い良く宗茂を部屋から追いだそうとする。
「私は着替える!!早く出て行け!」
「ああ、俺はパジャマでも気にしないぞ」
「ふざけるな!早く!早く出て行け馬鹿者!」
腰掛けた宗茂を立たせると、ギン千代は自らもベッドを出て、
彼の背を押しながら出口の方へ誘導する。
「着替えたら声をかけてくれ、
久しぶりに二人で出かけよう」
部屋から締め出される直前、
宗茂はにっこり笑って言った。




- 1/3 -



しおりを挟む

back

×