刺すような寒さの中、
そこは暖かな温もりに包まれていた……。


年の瀬が迫り、
世間が慌ただしく新年の準備に追われる中、
早々に大掃除も準備も終わらせていた立花両人は、
まったりと年末を凄いていた。
宗茂は炬燵に入り籠に、
山盛り積まれた蜜柑に手を伸ばし、
だらだらとした動作で皮を剥き、口に運ぶ。
普段彼のそんな様子に小言をいうギン千代も、
今は彼の向かい側で鬼をも眠らす炬燵の魔力に負け、
机に伏して熟睡している。
そんな彼女の寝顔を眺めながら、
蜜柑を一房、二房と口に運び気付けば蜜柑は三つ目。
さすがに食べ過ぎたと反省しながら、
蜜柑の皮をまとめて捨てる。
手持ち無沙汰になった宗茂は、
眠るギン千代の頬をそっとつついたり、鼻を摘んでみるが、
一向に起きる気配がない。
人の気配には敏感なギン千代がここまで寝入るとは……。
恐るべし。炬燵。
宗茂の顔に笑みが浮かべながら、そっと炬燵を抜け出し、
眠る彼女の横に移動すると、その無防備な唇に、
己のそれをそっと重ねた。
「ん……」
小さく声を漏らしたギン千代に、
起きたのかと顔を除けば、
瞼は相変わらず閉ざされたまま、
唇は変わらず穏やかな寝息を漏らしている。
「ギン千代」
今度は耳元で囁く。
すると彼女の瞼がわずかに震え、
栗色の瞳がぼんやりと宗茂を見つめた。
「宗……茂……?……っ」
刹那ギン千代の瞳が驚きに見開かれ、
薄っすらと頬を染め、慌てて宗茂から距離を取る。
「貴様!何故……!」
「起きたか、炬燵で寝ては風邪を引くぞ?」
散々彼女の寝顔を堪能した自分が言えたことではないが、
何事もなかったように言ってみせる。
ギン千代はそそくさと一度炬燵から出て、
反対側に座るが、
すかさず宗茂が追いかけ、隣に座る。
それを数回繰り返したところで、
ギン千代の怒りが爆発した。
「いい加減にしろ!なんなのだ、一体!!」
「いや、逃げるものは追いたくなるだろう?」
ギン千代ならばなおさら。
あっけからんとした宗茂の言葉に、
ギン千代は先ほどよりも真っ赤になる。
そんな彼女の様子に、宗茂は笑みを深め、
ギン千代の頭を一撫でしてから部屋を出て行った。
「ああそうだ、可愛い寝顔見せてもらったぞ」
出て行く間際放たれた宗茂の言葉と、
ギン千代の激しすぎる照れ隠しによって、
立花家はしばし騒々しさに包まれるのだった。
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