処暑を迎えたはずなのに、一向に暑さが落ち着く気配もなく。 最近はずっと熱帯夜が続き、非常に寝苦しい。 あまりの暑さに扇風機だけは夜通し稼働しているが、 効果などたかがしれている。 しかし何故かいつもより寝苦しい気がして、 空が白み始めた頃、 ゴロリと寝返りを一つうちギン千代は目を開けた。 刹那飛び出そうになった悲鳴を、 両手を口に押し当て、ることでギン千代はなんとか押しとどめた。 目の前にはよく知る整った顔。 よほど暑かったのか、其の上半身は何もまとってはおらず、 寝苦しいのかわずかに眉間に皺がよっている。 そして、無駄に良い体格の所為で、 扇風機の送風が遮られ、ギン千代まで届かない。 ―いつもより寝苦しかったのは貴様の所為か! 隣で眠る男にわずかに腹を立てたところで、 ギン千代は有ることを思い出した。 昨夜は確かに二人別々の部屋で眠ったはず……。 それがなぜ同じ部屋、同じ布団で寝ているのか? いつ入ってきた?何故気づかない? 寝起きでうまく回らない頭で考えて見るが、 次々わく疑問の答えは見つからず、 ギン千代は、目の前で眠る男を叩き起こして問い詰めるのが、 一番手っ取り早いという結論に至った。 そうと決まれば、早速ギン千代はのんきに眠る宗茂を起こしにかかる。 風を遮り安眠を妨害された上、 起き抜けに思い切り驚かされた彼女は、容赦がなかった。 「宗茂!起きろ!!」 名を呼び肩を掴み激しく揺さぶるが、 起きる気配のない宗茂にギン千代の堪忍袋の緒が切れた。 「この……起、き、ろ!馬鹿者!!!」 「うっ……」 声を張り上げ力の限りを尽くし彼をベッドから蹴り落とす。 ドスンという音と共に小さく聞こえた呻き声に、 今度こそ起きただろうとギン千代がベッドから身を乗り出してみれば、 宗茂は何事もなかったかのように平然と眠ったまま。 その様子に、彼女の苛立ちはますます強くなる。 もう本当に容赦しない―。 しおりを挟む back ×
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