「ギン千代は、どんなお嫁さんになりたいんだ?」
ずっと昔、幼馴染にそう訪ねた事があった。
テレビや雑誌の花嫁を憧れを含んだ瞳で見つめていたくせに、
興味が無いとぶっきらぼうに返してきた幼馴染。
可愛いものに目がないくせに、
プライドが邪魔をして素直に言い出せない、
実に彼女らしい答えだった。


*



友人の結婚式の帰り道、
ギン千代はもらったブーケにふと目線を落とした。
とても良い式だったと思う。
花嫁の笑顔も新郎の笑顔も輝いていて、
幸せなのだと全身で語っていた。
自分もいつかあんなふうに……。
ふと湧いた考えを打ち消すようにギン千代は激しく首を左右に振ると、
はぁと溜息をついく。
ごく一般的な女性らしさからはかけ離れた位置にいる自分でも、
人並みの憧れはあるが、それを口にしようものなら隣を歩く"婚約者"は
ここぞとばかりに誂いの種にするだろう。
ギン千代は再びため息を一つ吐く。
「どうかしか?ギン千代」
「別に何もない」
腹立たしい程整った顔に笑みを乗せ、
尋ねてくる婚約者がかつて自分に投げかけた問いをふと思い出した。
どんな花嫁になりたいかなど、よく考えていなかった。
ただただ輝く存在に憧れていただけ。実に素直でない返答をしてしまったが……。
「次はギン千代の番か?」
「何、を……」
言っているのだこの男は。
ブーケを受け取ったものが次の花嫁になるとか言う話は、
ギン千代もよく知っている。
知っているが、仮にも婚約者である者が何を言うのか……。
唖然としていたギン千代の表情が呆れに変わる。
ギン千代がこれみよがしに大きなため息をつくと、
宗茂は不敵に口元を歪めた。
「なんだ?プロポーズの言葉でも期待したか?」
「なっ馬鹿者!誰がそのようなこと……!」
突拍子もない言葉に思わず叫ぶ、
同時に手にも力が入り、大切に持っていたブーケを少し潰してしまった。
大声を出したことでいらぬ注目まで浴びてしまったことも含めて、
宗茂を睨みつけるが、全く効き目を感じず、
眼の前の男はそれはそれは楽しそうに笑っている。
やられたとギン千代は思った。また誂われたのだ。
悔しさに顔を歪め、宗茂から視線を反らすと、
僅かに型くずれしたブーケをどうにかして元に戻そうと試みる。
パステルカラーの薔薇がメインの可愛らしいブーケ。
自分には似合わないと思いつつも、
可愛いらしいそれをギン千代は気に入っていた。
「ギン千代には似合わないな」
不意に掛けられた言葉に、カッとギン千代の頭に血がのぼる。
自覚はしていても、他人から言われればやはり不快である。
ましてその言葉を吐いたのは仮にも婚約者である男だ。
「そんなこと!貴様に言われなくともわかっている!!」
叫んで、ブーケを宗茂に投げつけ、気がついたら逃げるように走り去っていた。
胸がつまり、溢れそうになる涙を、上を向き悪態をつくことで耐える。
しばらくしてからギン千代を襲ったのは、
せっかくもらったブーケを投げつけてしまったことへの後悔と、
逃げてきても結局は同じ家に帰るという事への諦めだった。
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