-side幸村-

つい最近まで美しく咲き誇っていた桜も、終わりに近づいた頃、
どことなく緊張した面もちで花屋の前に立つ青年が一人。
青年は一度だけ深呼吸すると、
意を決したように店員に声をかけた。
「一番美しく咲いた赤い薔薇を一輪、いただけますか」



義や愛を大切にする友人から数日前に聞いた話を、
幸村は思い返していた。
その手にもつ可愛らしくラッピングされた薔薇。
『サン・ジョルディの日を知っているか?』
久しぶりに親しい友人で集まった時、
兼続が拳を掲げ切り出した。
自分より7つ年上の彼は、
同じく年上の三成と一緒に
幼い頃からよく面倒を見てくれていた。
『何でも男性は女性に赤いバラを、
女性は男性に本を贈る日らしい』
愛に満ち溢れた日だ!と力強く言い放った兼続に、
一緒にいた政宗が呆れた顔をする。
『何が愛じゃ馬鹿め……』
『何だと?不義な山犬め!
お前には今日こそ義と愛を植え付けてやる!』
政宗の一言で二人が言い争いを始めるのはいつものこと。
すでに諦めている三成は完全に傍観している。
その様子に苦笑を浮かべる幸村の横で、
宗茂が相変わらずだなとどこか楽しげに言った。
『幸村はどうするんだ?やっぱりお嬢さんに?』
からかうような宗茂の言葉に、幸村は顔を赤くする。
『わ、私とくのいちはそのような……!』
慌てる幸村を、宗茂はさらにからかう。
『俺はくのいちとは言ってないぞ……?』
『宗茂殿……!』
『宗茂……あまり幸村をからかってやるな』
茹で蛸のように顔を真っ赤にした幸村をみかねて、
三成が未だ楽しそうな宗茂を窘めたのだった。



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