春の暖かな日の光が差し込む立花家の一室に、
色鮮やかな雛人形が飾られていた。
天井から色鮮やかなつるし飾りが垂らされていて、
普段質素なその部屋は華やかに彩られている。
立花家の一人娘の健やかな成長を願う
道雪らの思いが込められたそれを、
ギン千代は嬉しそうに眺めていた。
鼠や兎、梅の花や桃の実など、
様々な可愛らしい飾りが飾られるのを、
毎年楽しみにしているギン千代。
かれこれ小一時間、その場を動かずにいた。
「ギン千代、ここにいたか」
「宗茂!」
ひょっこりと顔を出した自分の許嫁に、
上機嫌なギン千代は笑顔を向けた。
「綺麗だな」
「ああ!父上がかざってくださったのだ!」
宗茂の言葉にギン千代はさらに笑みを深めながら頷いた。
そのあどけない笑顔に宗茂めつられて笑う。
しばらくつるし飾りを眺めて、
宗茂はふと自分が頼まれ事をされていたことを思い出した。
「そういえば、道雪どのが呼んでいたぞ?
居間に居るからはやく来いと…」
「父上が?なぜ早く言わないのだ!」
そう言ってギン千代は立ち上がり父の元へと駆けていこうとする。
「何している宗茂!はやくいくぞ!」
そう言って急かすように自分の腕を引くギン千代に苦笑しながら、
宗茂は立ち上がり一緒に駆けていった。


二人が居間に駆け込むと、
宗茂の父紹運が静かに二人を窘めた。
「二人とも、廊下は走るんじゃない。
慌てなくとも桜餅は逃げない」
「さくらもち?」
「今日はひな祭りだからと、宗麟様がくださったのだ」
首を傾げたギン千代に、
道雪が答えテーブルに置かれた包みをといた。
中にはこれでもかと言うほどに桜餅が詰められている。
道雪はそこから2つ取り出し、
食えと言ってギン千代と宗茂それぞれに1つずつ渡した。
「いただきます」
2人はそれを受け取ると、
にっこり笑って頬張った。
そんな子供達の様子に、
父2人は顔を見合わせて笑うのだった。
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