ひんやりと澄んだ空気が満ちる深夜三時。
まだ太陽ははるか地平線の下だという時間帯に、
ギン千代は一人ベランダにでて空を見上げていた。
寝間着姿なので実に寒いのだが、
ギン千代は気にせずただただオリオンが誇らしげに佇む方角を眺めている。
「あ……」
ギン千代が小さく声を漏らす。
彼女の見つめる先で一つ、星が零れた。
空に一閃を描き瞬く間に姿を消した流星は、
ギン千代の心を踊らせる。
らしくないと思いながら、
部屋の中暖かい布団に包まれて
−一応起こしはしたが−
眠っているせいでこの光景を観れないでいる半身を哀れんだ。
色々なことを考えているとまた一つ、
二つと星が流れた。
「寒……」
流石に寒さに耐えきれなくなり、
一度部屋に戻って何か羽織ってこようとした瞬間、
ギン千代はいきなり背後から抱き込まれた。
「起こしてくれと言ったじゃないかギン千代」
「私は起こしたぞ。生返事を返しただけですぐ眠った貴様が悪い」
抱き込まれたまま会話を続ける。
いつの間にか起き出してきた宗茂は、
大きめの半纏を着てなんとも暖かそうな格好をしていた。
「だいぶ冷えてるな…」
そういって宗茂はギン千代の手を握る。
薄着でいたせいで彼女の体はかなり冷え切っていた。
「このくらい問題ない」
「そんな訳ないだろう。これをつけていろ」
宗茂は半纏のポケットから手袋とマフラーを取り出すと
ギン千代の手に、首につけていく。
「このマフラー長すぎではないか?」
ギン千代の言うとおり、
一人で巻くには長くだいぶ端が余っていた。
その端をつかみ、
宗茂は唐突に自分の首に巻いた。
「な…!貴様なにをしている!」
「しっ大声出すと近所迷惑になる」
恥ずかしさから頬を染め抗議の声を上げたギン千代は、
宗茂に諫められぐっと口を噤んだ。
「ああそうだ。これを使わないか?」
宗茂の手にはロールマットが握られている。
「寝転んで見た方が見やすいだろうからな」
宗茂の提案をギン千代は珍しく素直に聞き入れ、
敷いたマットの上に二人して寝転がった。
宗茂が着ていた半纏を布団のようにして、
二人の上にかけた。
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