「宗茂…」
ギン千代は暗い部屋に佇む宗茂に
静かに声をかけた。
島津の手から取り戻したこの城は、
宗茂の実父である紹運が命をとして守り抜こうとした城である。
紹運は防衛に向かないこの城で
太閤殿下の援軍を間に合わせてみせると言って戦い散った。
その報せを聞いた時、宗茂は一瞬だけ顔を歪ませたが、
すぐにいつも通りの顔をして指揮をとり続けた
結果、立花山城を守り抜き、
奪われたこの城を取り返すこともできた。
そんなことを考えながら、ギン千代は再び宗茂に声をかける。
「宗茂」
「ギン千代か、何だ?」
返ってきた返事はいつもと変わらない調子だったが、
ギン千代はどこか痛々しさを感じていた。
「何をしている?」
「月を見ていた。今宵は満月だ、ギン千代も一緒にどうだ?」
冷たい月明かりに照らされ、
振り返った宗茂は笑みを浮かべていたが、
いつもと違う貼り付けたような笑顔だった。
ギン千代は眉を寄せながら宗茂に近づいた。
「貴様、何を笑っている?」
きょとんとする宗茂の頬に手を添えると、思い切り抓った。
「ギン千代、痛い。離してくれないか」
「うるさい」
宗茂の訴えを一蹴し、ギン千代は再び訪ねた。
「何故貴様は笑っている」
父が死に、辛くないはずがない。
事実宗茂が浮かべる笑みには悲痛な色が混じっていて、
無理に笑っていることは明白だった。
「貴様にとって私は、弱音も吐けぬほど頼りない妻なのか?」
「ギン千代?」
「父上が亡くなったおり、
泣くまいとしていた私にお前は泣けと言った」
ギン千代は宗茂の頬を掴んでいた手を外し、首の後ろに回す。

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