そう心に決めてギン千代はベッドから降りると、
宗茂の鳩尾に狙いを定めて、思い切り拳を振り下ろした。
しかし、それの拳が彼の鳩尾を捉えることはなく、
既の所で標的自身の腕に捕らえられてしまった。
「なっ……貴様起きて……うわっ」
驚いてギン千代が宗茂を見れば、
目はぱっちりと開いていて、不敵な笑みを浮かべている。
嵌められたと思った時にはすでに遅く、
掴まれた腕を引かれ、ギン千代は彼の胸に倒れこんだ。
「蹴り落とすことは無いんじゃないか?ギン千代」
「貴様いつから……!」
ギン千代は思い切り宗茂を睨みつけながら起き上がろうとするが、
いつの間にか腰に回された腕がそれを阻む。
彼女の睨みなど意に介さず、
愉快そうな笑みを浮かべ続ける宗茂が、
腰に回した手でそろりと腰から背中にかけて撫で上げれば、
ギン千代の口からちいさく悲鳴が漏れた。
「宗茂!ひぁ……っ」
抗議の声を封じるために撫で続ければ、
恥ずかしいのか顔を熟れた林檎の用に赤くして、
彼女が再び睨みつけてくる。
その目にはうっすらと涙が溜まっていて、
先ほどより更に迫力は減っているが……。
「結構痛かったんだが?」
「それは……私が悪かった……から!
は、離せ!……離して……!」
こみ上げる羞恥と何とも言えぬ擽ったさに耐えかねて、
ギン千代が乞えば、
宗茂はもう一度だけそろりと背筋を撫で上げてから、
そっと手を話した。
その瞬間ガバリと起き上がり、床にヘたり混んだ彼女を見て、
宗茂は隠すことなく笑う。
「本当に背中弱いな」
「うるさい」
いけしゃあしゃあと言ってのけた宗茂に、
怒る気すら失せたギン千代は、
脱力してラグの上に突っ伏した。
未だ早鐘を打つ鼓動も、頬に集まった熱も、
もうしばらく落ち着きそうにない。
いつ、何故、どうやってこの部屋に入ってきたのか、
それを聞く気力すら残されていない彼女の心中を知ってか知らずか、
彼は腹立たしいほど整った笑顔で言った。
「おはようギン千代」

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