「その……お前は、サン・ジョルディの日を知っているか?」 「サン・ジョルディの日?」 数日前仲間内で集まった時に聞いていたため、 宗茂はそれがどんな日か知っていたがあえて知らないふりをする。 腕に抱く彼女がどんな出方をするのか見たかったのだ。 「女は本を、男は薔薇を異性に贈る日だそうだ」 「そうか、それでお前は俺にどんな本をくれるんだ?」 耳元で囁くように聞けば、ギン千代はビクリと肩を震わせる。 「誰もお前にやるとは言ってないではないか」 「違うのか?」 拗ねたように言うギン千代に苦笑しつつ、 なだめるように頭を撫でた。 その手はすぐに振り払われてしまったが、 ギン千代が小さく違わないがといったのが聞こえてきて、 宗茂は満足そうな笑みを浮かべた。 「で、どんな本なんだ?」 「取ってくるから離せ……!」 羞恥が限界にきたのか涙目で睨み、 腕から逃げようとするギン千代をおとなしく開放すると、 まっすぐソファに駆け寄った彼女の行動に宗茂は苦笑する。 「推理小説だ。面白いかどうかは知らぬ」 そっぽを向いたまま、 ぶっきらぼうに差し出されたそれを宗茂が受け取ると、 ギン千代は照れたように付け足した。 「付き合いで買ったからだ……」 赤い顔で目を逸らしながら言うギン千代を宗茂は再び抱きしめる。 今度は正面から……。 もがくギン千代を逃がさないとばかりに腕に力を込める。 こうすれば彼女は逃れることを諦めるのだ。 「ありがとうギン千代。しかし困ったな……」 「何がだ?」 余り困っているように聞こえない宗茂の言葉に、 ギン千代は胡乱げな顔をして彼を見上げた。 「俺は薔薇を買っていない」 殊更困った風を装って言えば、 ギン千代は一瞬驚いた顔をした後小さくため息をついた。 「そんなことか……。立花は花などいらぬ」 もとより期待していないそういって顔を逸らしたギン千代に、 宗茂はあることを思いつく。 「ギン千代、薔薇ではないが、赤い花なら贈ってやれるぞ」 そういって抱きしめていたギン千代の体を少しだけ離す。 わけがわからないという顔を向けるギン千代を尻目に、 彼女の白く魅惑的な首筋に唇を寄せる。 「なにを……っ!」 ギン千代は驚いて声を上げるが制止は間に合わず、 チクリとした痛みが彼女をおそう。 見ると首筋には赤い印。 宗茂は満足そうにその印を眺めている。 「薔薇は明日買ってくるから、 今日はこの花で勘弁してくれ」 あっけからんと言ってのけた宗茂に、 ギン千代は羞恥とは違う意味で顔に熱が集まるのを感じた。 「この……!痴れ者がぁ!!」 怒りが頂点に達したギン千代の声と共に、 激しい雷鳴が家中に響き渡った。 しおりを挟む back ×
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