-sideくのいち-



「サン・ジョルディの日?」
昼休み、賑わう食堂に集まった少女たちは異口同音に声をあげた。
「なんでも今日は、男は薔薇を、女は本を異性に贈る日らしいわよ!」
今朝御館様に聞いたのと、こういったイベントが大好きな少女甲斐は言うと、
特に興味無さそうに食事を続ける面々に不満気な顔を向ける。
「何であんた達そんな反応薄いのよ……」
「興味がない」
「右に同じですにゃ〜」
にべもなく言い放つ友人二人に、甲斐はがっくりと肩を落とす。
「なんて勿体無い!特にくのいち、あんたわかってるの?」
はぁーと盛大にため息をつき、
甲斐は持っていたフォークの先をくのいちに向けた。
「なにが?」
デザートであるチョコレートプリンを口に含みながら、
くのいちは首を傾げる。
そんな彼女の様子に、甲斐は再び盛大なため息をつくと、
一度だけギン千代に目線を向けて言った。
「婚約者がいるギン千代ならともかく、
ずるずる幼馴染を続けてるあんたにとっては大チャンスじゃない!!」
このままでいいの?!とフォークを握りしめ力説する甲斐にくのいちは半ば呆れながら返す。
「別に現状維持でも私は……」
将来的にはという思いはあったが、
現時点では幼馴染という関係でもくのいちは十分満足していた。
第一幸村がこのサン・ジョルディの日というものを知っているとは思えなかったし、
今日たった今知ったこの記念日をどうしろというのか。
本を贈るにしても、選んでる暇などあるのだろうか……?
「甘ぁい!!幸村様かっこいいんだから、
ぐずぐずしてたらすぐ他の女の子に取られちゃうんだから!」
あんたもそう思うでしょ!?と唐突に話題を振られたギン千代は、
圧倒されるままに肯定を返した。
「バレンタインほど重いイベントではないし、良いのではないか?」
ギン千代の言葉に甲斐は首を縦にふり、同意をしめいている。
「うーん……でも幸村様普段本読まないし……」
「読まないからこそいいんじゃない!」
意地でも自分に本を贈らせようとする甲斐の熱意に、
くのいちはついに折れたのだった。





あの後圧倒される二人はそのままに、
甲斐によって放課後書店に行く予定が追加され、
現在三人は学校近くの書店にいた。
「さっさと選ばないと、渡しにいく時間なくなるわよ!」
あれこれとかれこれ30分ほど選び倦ねているくのいちを、甲斐がせっつく。
くのいちが手にしているのは、
武術関連の本ともう一冊は比較的読みやすいと評判の推理小説だった。
普段本を読むより体を動かすことが好きな幸村には、
武術関連のほうが良いのだろうが、贈られて嬉しい物だろうか……。
「ギン千代さんはどんなのあげるんです?」
どちらか決めかねるくのいちは、
近くで同じように本を選ぶギン千代に声をかけた。
「わ、私は別に誰かにやろうなどとは考えておらぬ!」
そういうギン千代の手には一冊の本。
ハードカバーのそれはどうやら歴史小説らしかった。
「ふむふむ、ギン千代さんは歴史小説ですか……。
宗茂さんは歴史小説お好きなので?」
ニヤニヤしながら問うくのいちに、
肯定の意を返したあとギン千代の頬が瞬時に赤く染まる。
「だからと言って、奴にやるために買う訳ではないぞ!」
そういうと彼女はくるりとくのいちに背を向けると、
その本を持ってレジへ向かった。
「結局あまり参考にはならなかったにゃ〜」
一人残されたくのいちはため息混じりに言うと、
自分が持つ二冊の本を見つけた。



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