思い出して幸村は僅かに頬を赤くする。
何故かあの面子で集まると、
ここぞとばかりにからかわれるのだ。
「はあ……」
思わず漏れるため息。
幸村は手に持った薔薇に目を向ける。
幼なじみの少女は喜んでくれるだろうか。
幸村はそう考えてはたとあることに気づく。
去年まで一度もこの日に薔薇を贈ったこともなければ、
本を贈られたこともない。
それもそのはず、数日前まで知らなかったことである。
教えて貰った自分はともかく、彼女は知っているのだろうか……。
知らないとしたら彼女はいきなり薔薇を贈られて迷惑するのでは?
「どうすれば……」
「何がですか?」
突然かけられた声に幸村は弾かれたように振り返った。
そこにはたった今自分の思考を支配していた少女がたっていて、
不思議そうに自分を見るくのいちに幸村はうろたえる。
「こんな所でぼーっと立ってたら危ないですよ?」
「あ、ああそうだな……すまない」
「あれ、幸村様その薔薇……」
ふいにくのいちの視線が幸村の持つ薔薇に注がれる。
「ははーん、幸村様誰かにプロポーズですか?」
幸村がどう説明しようか思案していると、
くのいちが悪戯っ子のような顔で訪ねてきた。
「ち、違う!これはそなたに……!」
言ってから幸村はしまったという顔をしてくのいちを見た。
案の定彼女は驚いた顔をしている。
もとより彼女へ贈るつもりで購入した薔薇だが、
タイミングやシチュエーションなどを
考えていなかったわけでわない。
こうなっては仕方がない。
腹をくくって幸村は一番気になっていたことを訪ねてみる。
「くのいちは、サン・ジョルディの日を知っているか?」
「知ってますよ」
くのいちは即答すると、カバンから書店の紙袋を取り出した。
「男性は薔薇を女性は本を贈る日ですよね?」
今日学校で聞きました。
そう言ってくのいちは持っていた袋を幸村に差し出す。
「本当は、家に帰って、
ちゃんとラッピングしてから渡したかったんですけど」
幸村が本を受けとると、照れたように笑うくのいち。
その表情に緊張していた幸村の表情も緩む。
「では、これは私から」
差し出した薔薇を至極嬉しそうに受け取ったくのいちを見て、
幸村はこの記念日を教えてくれた兼続に心の中で感謝するのだった
- 2/4 -



しおりを挟む

back

×