ガラシャの言う通り、珍しい姿は見ることが出来た。 動揺のあまり停止した宗茂など、 普段どころか今まで共に過ごしてきて一度も見たことがない。 「宗茂?」 未だ固まったままの宗茂に、ギン千代は再び声をかけた。 「ギン千代……」 「なんだ?」 やっと喋ったとギン千代が宗茂に近づくと、 いきなり腕を捕まれ引き寄せられた。 すっぽりと宗茂の膝の上で彼の腕にきつく抱きしめられ、 今度はギン千代が動揺する。 「なっ離せ宗茂!!」 「本当か?」 「は?」 引き離そうと躍起になるギン千代の耳元で、 宗茂は囁くように訪ねた。 「さっきの話は本当なのか?」 呆然とした、しかし期待の籠もった眼差しを向けられ、 ギン千代は後ろめたさを感じる。 やはりやりすぎた……。 「すまぬ……その、嘘……なのだ。 今日はエイプリルフールで……」 ギン千代はそう告げると、 いたたまれなくなって視線をそらす。 「毎年私ばかり騙されていたから、 今年こそと思っていたんだか……宗茂?」 また黙り込んだまま動かない宗茂に、 そらしていた視線を戻すと、 彼はなんとも妖しげな笑みを浮かべていた。 自分を抱き込んでいる男が、 このような表情を浮かべた時はろくなことがない。 本能的に身の危険を感じたギン千代は、少しでも距離をとろうと努めるが、 がっちりと腰に回った腕に、それは徒労に終わる。 「知っているかギン千代」 「何をだ?」 妖しげ笑みのまま宗茂が問う。 「エイプリルフールで嘘をついていいのは午前中だけらしいぞ」 「な……!?」 宗茂の言葉にギン千代は慌てる。 腕の中で、赤くなったり青くなったり忙しいギン千代を、さっと宗茂は抱き上げた。 突然の宗茂の行動に、ギン千代はハッとして抵抗を示す。 「いきなり何をする!おろせ……!」 「午後に嘘はつけない。 それならばお前の嘘を誠にしようか、ギン千代」 意味を理解し抵抗を強めるギン千代をものともせず、 宗茂は寝室へと赴きベッドに彼女を降ろす。 「ま、待て宗茂……!」 「それは聞けない願いだな」 耳元まで赤くして言うギン千代に、 宗茂は妖艶に微笑んで、彼女をシーツに沈めていった。 かくして、ギン千代の計画は 思いがけない宗茂の反撃に打ちのめされ、失敗に終わった。 彼女の嘘が誠になったかは、神のみぞ知る……。 しおりを挟む back ×
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