マイユニについて



彼女のことをひとりの女性として見るようになったのは何時からか。
気持ちを自覚してしまえば、気恥ずかしさよりも、
自分が忠誠を誓う彼に申し訳ない気持ちが先に沸いてきた。
彼女は彼の妹で、ただそれだけだったはずだ。
―僕にもこんな感情があったのか。
一度宿った感情を消すのはなかなか難しい。
帳簿に今月の団の収入と支出を書き込みながら、
赤毛の騎士とともに家事に勤しむ少女に目を向ける。
いつもと変わらない少女の笑顔にホッとする。
そしていつもと同じように、愛おしさがこみ上げてくる。
手を止めて、しばらく彼女を見ているとふと目があった。
「セネリオどうしたの?」
「別になにも」
笑顔で訪ねてくる少女に素っ気ない態度しかとれない自分がにくい。
それでも彼女は笑顔で話しかけてくる。
「今ね、ティアマトさんと今日の夕飯どうしようかって話しをしてたんだけど、
 セネリオは何か食べたいものってある?」
「特には。あなた方にお任せします」
自分に希望など無いことは分かり切っている筈なのに、
彼女は必ず自分にも聞いてくる。
昔はそれが煩わしくて仕方がなかったのに。
今はどうだろう、問われるのを待っている自分がいる。
今砦には自分と彼女達二人だけしかいない。
他の者は皆依頼のために出払っている。
「何か手伝いましょうか?」
ふいにでた言葉はなんともらしくない言葉で、
やはり彼女は少し驚いた顔をしていた。
「いいの?セネリオ仕事してたんでしょう?」
「構いません。こちらはもう終わりますから」
本当はまだかなり残っていたが、
思わずでたウソに彼女は微笑みながらありがとうといった。
「じゃあ、これからご飯作るの手伝ってくれる?」
「わかりました。で、なにを作るつもりなんですか?」
「あ…あー、えっと…」
苦笑を浮かべながら言いよどむ彼女に、少しの呆れと愛おしさを感じながら、
食糧は十分にあっただろうか、月末だから買い出しが必要な気がする、
更に依頼帰りの彼らはよく食べるから、
もしかしたら足りないかもしれないなどと考えていた。
「…買い出しに行きながら考えましょうか」
皆たくさん食べるでしょうから買い足しておきましょう
と付け足して、手を差し出す。
らしくない。と自分でも思う。こ
んな姿赤毛の弓兵に見られたらそれはそれは盛大にからかわれるだろう。
「なんか、今日のセネリオ何時もより優しいね」
何かあった?と手を取りながら聞いてくる彼女に、
ふっと小さな笑いが漏れた。
「ひとつ、良いことがありましたから」
「そうなの?あ、ティアマトさん!行ってきます!」
「いってらっしゃい2人とも。気をつけて」
何を買おう。やはり肉は多めに必要だろうか。
そんな事を考えながら、見送りに小さく手を振った。
今日の自分はどうしてしまったのか、らしくない行動ばかり起こす。
恋とはこうも人を狂わせるのかと
自分のプランを楽しそうに話す彼女の横で、考えていた。





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