マイユニについて



焼き菓子と紅茶の香りが天幕を満たす。
そこへナイフを持ったルグレが戻ってきた。
「いい匂いだね。お腹が空いてくるよ」
お腹を押さえて笑うルグレに、
ルキナもつられて微笑んだ。
ルグレが焼き菓子にナイフを入れ
均等に切り分けたそれを一切れずつ取り分けた。
あらかじめ入れておいた紅茶を
それぞれのカップに注ぎ席に着く。
「じゃあ食べようか」
「はい!」
いただきます。と手を合わせたルグレの見慣れない動作に、
ルキナは不思議そうな顔を彼に向けた。
「ルキナ?」
「あ、すみません…。見慣れない動作だったのでつい」
ルキナが言うと、合点が言ったようにルグレは微笑んだ
「サイリの故郷では、食事の前に手を合わせて、
いただきますって言うらしいんだ」
ちなみに食後はごちそうさまって言うらしいよ。
そう付け足してルグレは焼き菓子に手を付けた。
その様子をみて、ルキナも彼に倣うことにした。
「いただきます」
ふんわりしている食感に、
甘さは控えられていて、紅茶によく合う。
好物なこともあって二人とも一切れ、また一切れと食が進む。
他愛のない話をしながら、ささやかなティータイムを楽しんだ。
ふと気づくと、ひと切れだけ余ったしまっている。
「最後のひと切れ、ルキナが食べていいよ。これ好きだっただろ?」
ふいにルグレが残りの焼き菓子がのった皿を
ずいっとルキナの方に押した。
「そんな、私は結構ですからルグレさんが食べてください。
ルグレさんだって、このお菓子お好きでしょう?」
そういって自分の方に寄せられた皿を押し返した。
「僕はもうお腹いっぱいだからさ」
「私も、もう十分です」
どちらも相手に譲る姿勢を崩さず、
しばらく押し問答を続ける。
「あ!」
「ルグレさん?」
唐突にルグレが思いついた様に声をあげた。
「これ、クロムのところに持っていくのはどうかな?
クロムなら食べてくれるだろうし、
確かこれクロムも好きだっただろう?」
ルグレの言うとおり、クロムもこの焼き菓子は好きだ。
お互いに自分で食べる気がないならそれもいいかもしれない。
そう考えて、ルキナは同意を込めて頷いた。
「じゃあ、行こうか」
ルグレは余った焼き菓子の包みを手にも歩きだした。
それにルキナも続き、
焼き菓子を持っていない方の手に自らの手を絡めた。
(幸せ…)
こみ上げてくる愛しさと幸福感に、ルキナは小さく笑った。
お父様は喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えながらルキナは歩を進めるのだった。





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