誰が置いたのかはわからない。
 その日起きたら、僕の枕元には、見覚えのない箱があったんだ。綺麗な赤色で包装された箱には緑色のリボンが結んであった。

「もしかして、サンタクロース?」

 言ったものの、僕はすぐに首を横に振った。
 そうだ、サンタクロースなんてここに来るはずがないんだ。毎日戦争ばかりしている国にーー


「おはよう神父さん」

「おはようクリスティ」

 いつもの挨拶を済ませると、僕は日に焼けたテーブルの席に着いた。神父さんは二人分の薄いパンと豆のスープを置いて僕の向かい側に座る。
 神父さんの後ろにある小さな窓からは、まだ薄暗い真冬の空が見えていた。

「神父さん、昨日誰か来たの?」

 僕はテーブルの中央に置かれた籠からスプーンをとりながら言った。

「いや、誰も来ていないよ」

 神父さんは教会新聞を片手に険しい顔をしながら答える。教会新聞は一月ごとに教会が配っている新聞だ。この間少し読んでみたことがあるけど、文字が読めない僕にとっては何かの落書きにしか見えなかった。教会のことだから、どうせ日々の聖句とか祈りの一部なんかが書いてあるんだ。あとはこの戦争の状況。
 神父さんがこんな険しい顔をするときは、だいたい戦争の話とか状況を見た時なんだ。だから、今神父さんが読んでいる記事は、戦争に関する記事。僕にはなんとなくわかる。

「僕のベッドにこんなのが置いてあったんだ」

 僕は神父さんの注目を新聞からこっちに移すために、今朝ベッドに置いてあった箱を掲げてみせた。
 神父さんは新聞から視線を上げ、こっちを見てふっと微笑む。白い髭がかすかに動いた。

「それは、サンタクロースっていうやつじゃないかな」

 神父さんはひどく優しい笑顔で言った。その笑顔は、絵本に出てくる紅い服のおじいさんにどこか似ている。

「でも、この国にサンタクロースは来ないって神父さんは言ってたじゃん」

 僕は向きになって言った。そうだ、戦争ばかりしていて、クリスマスという祝日さえ忘れてしまったこの国に、サンタクロースはやってくるはずないんだ。そう、神父さんが言ったんだ。現に、僕はサンタクロースからプレゼントをもらったことがない。

「確かに言ったね。でも、もしかしたらサンタクロースを待つクリスティに気づいたのかもしれないよ」

 神父さんが言うと、後ろの窓から朝日が差し込んできた。それが神父さんの肩をかすめて、法衣が烏羽色に染まる。
 神父さんはテーブルで食卓を照らす灯火を近づけ、ふっと静かに吹き消した。

「さぁ、朝日は昇った。闇は消え去り、まことの光はすでに輝いている」

 聖句を綴り、神父さんは手を合わせる。
 朝食の場で、それ以上神父さんの口からサンタクロースの話は出てこなかった。


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笑顔の面影1

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