「神父さん。お菓子をくれないといたずらしちゃうよ!」
突然開いた扉からのぞいたのは、クリスティのいたずらな笑みと楽しそうな声だった。
「しっ……クリスティ」
私は驚きながらも人差し指を口元に当てて、半ば叱責するように、だが静かにそう言った。
それにしても、なぜクリスティがこの夜中に私のところへやってきたのだろうか。私は先ほどクリスティの寝顔を確認してこの自室に戻ってきたのだ。
……と、よくよくクリスティの格好を見てみれば、彼は黒い布を頭からすっぽりかぶった変な格好をしている。例えてみれば、そう……お化けだ。おそらく、私を驚かせる魂胆で狸寝入りをし、クローゼットから真冬の黒いカーテンを引っ張りだして頭からかぶり、この日にお似合いの死者に似せて私のもとへやってきたのだろう。
「なにしてるの?」
クリスティが黒いカーテンを脱ぎ、私の隣にやってくる。そして、私と同じように窓の外を見やった。しかし、外はいつものと変わらずつまらない暗闇が広がってるだけだ。入り込んでくる夜風は日中の市街戦の火薬の香りを含んでいて、決して心地いいものではない。
「なにを見てたの?」
「静かにしなさい。死者たちが驚いて逃げてしまうよ」
今度はクリスティの口元に直接私の指を当てた。
クリスティはつまらないと言う風に頬を膨らませる。そして、今度はそれをすぐにしぼませて、私の手を下ろさせてから不思議そうにだが声を潜めて言った。
「死者……お化けのこと?」
にわかに信じていないようなクリスティの顔と声。無理もない。クリスティには彼らの声が聞こえないのだ。
「今日はこの世と霊界を結ぶ門が開く日。この世に迷い込んだ彼らを、静かに還してあげなければいけないんだ」
「今日はハロウィンだよ。お化けが来たらお菓子をあげないといけないんだよ」
クリスティは物欲しそうに言う。黒いカーテンを肩にかけ、もう一度脅かすまいと構えているようだ。
「そうだね。そうすれば彼らは喜んで集まってきてくれる。そして、集まった彼らに霊界への道を示してあげないと」
「……神父さん、お化けなんて見えるの?」
クリスティがいかにも私を疑うように眉を引き寄せた。その表情に私は思わず鼻で小さく笑ってしまった。
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還る場所1
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