二人のサンタクロース1
冷たい雪が白い法衣に貼りつく中、私は大きな袋を背中に抱えて歩いていた。
「ね、ねぇ神父さん。こんな夜中にどこへ行くの? 今日はクリスマスだよ」
後ろから掛けられた声に私は振り向く。
私に追いついた小さなクリスティは、その狭い肩を上下させて真っ白な息を忙しなく吐き出していた。
「そうとも。だからこそ行くんだよ」
「どこへ?」
私の言葉に、クリスティは背伸びをして尋ねてくる。
私はそんな彼にクスリと鼻で笑って見せ、クリスティの視線に合わせて姿勢を屈めた。
「子どもたちの家さ。プレゼントを配るんだよ」
「なんで神父さんが配らなきゃいけないの? サンタクロースがいるじゃん」
クリスティは不満そうに私の法衣の裾を引っ張りながら言う。
そう、クリスマスにプレゼントを配るのは、本来ならこの貧相な神父の私ではなく、皆に愛される紅服のサンタクロースの役目だ。しかし、祝い事や祭りごとを忘れ戦争ばかりが続くこの国には、そんなものはやって来ない。
「クリスティ、会った時に言ったね。この国は戦争に明け暮れている。そんな国に、サンタクロースはやってこないよ」
「そんなの知ってる! でも、プレゼントを配ったら僕たちの食べ物がなくなっちゃうよ!」
静かな夜の街中に、クリスティの声が響き渡った。しかし、その声も積雪のせいですぐに吸収され、もとの静寂が戻ってくる。
クリスティの言うとおり、私が背中に抱えている袋の中身は、教会の庭で作った果実を使った菓子だ。
国はこの戦争の真っただ中だ。店にろくなものは売っていないし、何しろ金がなければ十分な食料もない。そう、貧相な神父の私が子どもたちにプレゼントを配る余裕などないはずなのだ。しかし、私は別にプレゼントを配ることで礼が欲しいわけでもなんでもない。ただ、私自身が満足したいだけなのだ。
「神父さん、帰ろうよ」
考えに耽っていた己に気づき、我に返ってみれば目の前には拗ねた顔で再び法衣を引っ張るクリスティの姿があった。
「いや、帰らないよ。私はプレゼントを配る」
単なる我がままだと言われようが構わない。私は、このクリスマスという素晴らしい日にプレゼントをもらい、あの日のクリスティのように幸せそうに笑う子どもたちを見て、ただ満足したいだけなのだ。
私は不満そうなクリスティを無視して屈めていた姿勢を伸ばした。そして、私の目指す先――子どもたちが寝ているであろう家を目指した。
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