「死にそこなった? なんでそんなことを言うんだい?」

「だってそうじゃない! こんな屈辱を受けるくらいなら、冬になる前に死んでいれば楽だったのよ」

 蝶は急に声を荒げる。死にそこなったようには見えないほどだ。

「あなたには温かい羽があるから、この寒さを凌げるかもしれない。でも私は、温かいものさえないの。もう飛べないし……このまま凍りついて死んでいくんだわ」

 蝶は最後の語尾を震わせながら言葉を終えた。泣いているのか――そもそも蝶が泣くなんて聞いたことないけれど……。

 僕は蝶の言葉に悲しくなって、そっと蝶に囁く。

「そう諦めたようなこと言わないでおくれよ。きみはここの春をもう見たくもないの?」

「見たいけど無理よ。私は春になる前に死んでいるわ」

 蝶は決め付けるように強く言う。でもまだ声は震えていた。

 さぁ困った。僕はこんなことを言う蝶を慰める術を持っていないし、どうしたものか。――ふと、僕の脳裏にいい案が浮かぶ。

「……あ、そうだ。なら僕の羽を貸してあげよう。そうすれば温かいだろう?」

「何を言ってるの?」

 蝶は意味がわからないというふうに言い返してくる。
 それでも僕は構わず話を進めた。

「とりあえず風の当たらないところへ行こうか」

 僕は辺りを見渡した。調度ひとっ飛びしたところに小さな林がある。葉をつけた木はないけれど、風くらいを凌ぐ生い茂ったところはあるはずだ。
 僕はくちばしでそっと蝶の身体をくわえた。蝶の身体は、とても冷たくて、わずかに触れた舌が痺れた気がした。

「ちょ、ちょっとなにするのよ!」

 必死に叫ぶも、蝶の身体はピクリとも動かない。そんな蝶に構わず、僕はバサリと乾いた音をたたせて、見つけた林にひとっ飛びで入り込む。
 そして、入ったところにあった木の根元に丁度いい穴を見つけると、翼をしぼませてスルッとその中へ入った。
「ここならいいや。風も入ってこないしね」

 そう言って、僕は蝶をくわえていたくちばしをそっと開く。そして、蝶を地面の上に降ろすと、その上に僕の翼を乗せてあげた。

[prev] [next]

春を見る冬越燕3
home
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -