「はい。しかし、もう巡礼の旅は終わったのです」

「いやいや、本当にそなたは面白い。それはいったいどういうことかな?」

 老司祭はまた笑いながら言った。首は傾げたままだ。

「私は、私の聖地を見つけたからです」

 そう、そうにございます。いままで盲目な神を信じていた巡礼者は、すべてを見据えすべての人々の祈りに耳を傾ける神がいる――まさにこの地を聖地としたのでございます。

「そうかい。しかし、そなたをここに置くわけにいかない」

 老司祭は大きくうなずいたが、なんとも神妙そうな顔で巡礼者にそう言った。

「なぜですか?」

 今度は巡礼者が首を傾げる。

「そなたのいるべき場所ではないからだ。生きとし生けるもの、この世界に深入りしてはいけないよ」

 老司祭はなんとも穏やかな微笑みを浮かべてそう言ったそうな。
 巡礼者はそんな老司祭に何を見たか――唖然としたように目を数回瞬いた。

「おわかりかな? 巡礼者のお方。さぁ、ここを立ち去りなさい」

 言いながら、老司祭は杖を小さく振って教会から続く道を指し示した。
 道の先は、神が降り立ったとされる聖地。豪華に飾りつけられた金ぴかに輝く大聖堂が待っているだろう。そこに降り立ったとされる神は、はたしてどのような神か――。

 巡礼者はしばらく悔しそうに道を見据えていたが、やがて老司祭に軽く会釈をすると、教会から続く道を一歩一歩踏みしめて行った。


聖地巡礼


「彼の旅路に、どうか幸多からんことを――」

 老司祭は、胸の教会紋章を握りしめてそう言葉を紡いだのでございます。

 ふと、気のせいか――老司祭がいたところにある墓に、それはそれは美しい花が一輪咲いていたのでございます。はて、何も訪れなさそうなこの教会に、いったい誰が添えたのか。



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聖地巡礼3
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