十字路第五章没
2012/04/04 22:00
もうまどろっこしいし、ダラダラ続き過ぎだから思い切って没にしました。
子どもたちの授業も終わり、セシリアが帰る頃になると教会の前にはセシリアとその護衛としてついてきている商人や傭兵が馬に乗って出発を待っていた。
しばらくして教会から出て来たテルジアは、入り口で待っていた村長に気づいて足を止めた。
「これから都市へ行くのか。空けるのは二日ほどと言ったな?」
エリクの低い声に、テルジアは馬の足を止めさせた。
「二日とは限りません。猊下の話の内容にもよりますから」
テルジアが答えると、エリクはまたあの疑わしげな視線を放ってくる。
「……くれぐれも、この村を危険に陥れるような話は慎んでもらいたい。さもなければそなたの身を切ることになるからな」
彼の言葉に嘘はない。先日やっとテルジアを受け入れたエリクだったが、やはり村長としての任を果たすために常々目を光らせているようだ。
「承知しております。ですが、猊下もエイル派の聖職者。その手のお話ではないと思いますよ。教派内では聖職者を受け入れないために、この村は噂程度の存在として考えられていますから」
「そうだといいが……。まぁ、気をつけて行ってきなさい。こんな村より便利な都市の方が過ごしやすいだろう。ついでに身体を休めてくると良い」
疑いの視線を消し、エリクはいつも村人に向ける親しみの色をその目に落とす。
しかし、テルジアは彼の言葉に苦しげに目を細めた。
「それはできないでしょう。サガ教の異端児は高貴な都市では嫌われ者ですから」
都市は村とは違い、高慢な高級貴族や高位聖職者たちが権力を振りかざして支配する土地。そうした者たちこそ弱者を痛めつけ、次々と異端者の烙印を押していく。そんな都市にサガ教の異端児などと謳われるテルジアが赴けば、彼らの嘲笑の対象にならないはずはなかった。周りからは奇異と軽蔑の視線が降り注ぎ、影ではありもしない迷信を囁かれる。そんな都市で身体を休められるはずはない。
「……そなたもそれなりの苦労があるのだな」
エリクがテルジアのなにを悟ったのかはわからない。しかし、彼の目は哀れみを含んだ寂しい色をしていた。
「吊るしあげられた方々に比べればたいしたことではありません。……では、行って参ります」
苦々しげに微笑み、テルジアは法衣の裾を少し持ち上げてセシリアが連れて来たもう一頭の馬に跨った。同時に黒いものが馬の背に飛び乗る。
当然のように馬に乗ったルーンはテルジアの膝もとに座りこんだ。
「出発しますよ。いつもより遅い時間になってしまいましたから、完全に暗くなってしまう前に森を抜けないと」
すでに馬に跨り、出発を待っていたセシリアが馬の腹を蹴る。護衛たちも馬の腹を蹴り、セシリアについて馬を走らせた。
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