………眠い。私は目を何度も何度も擦りながら、襲ってくる睡魔と必死に戦っていた。昨日はあれから何だかいろいろと考えてしまってなかなか眠れなかったのだ。…いやいやいや、おかしいだろ何で私がこんな悶々とした気持ち抱えなくちゃいけないんだ!ばかやろう!当然の如く寝坊したせいで本鈴ギリギリに教室に入ると、入った瞬間何故か久々知とものすごく目が合った。…今の偶然目が合ったっていうか、絶対久々知が何か入口ガン見してたせいだ。何で入口なんてガン見してんだあいつ。しかし気まずい、と思った瞬間、久々知はもう既に視線を逸らしていた。あいつ自分からこっち見といて自分から視線逸らすとはどういう了見だこの野郎。

昨日の好きじゃない宣言といい、久々知ってほんとに私の事好きなのか…?なんか、微妙だ。







あまり寝ていないせいか、今日は授業内容が全く頭に入ってこない。いや別にいつも特に真面目に聞いてるわけじゃないけど……ああもうほんと何で私がこんな目に!欠伸を噛み殺しながら、私はこの元凶である久々知をちらりと見た。

斜め後ろの席から見える久々知の横顔は、そこいらの男子よりよっぽどきれいだった。そうなんだよ、久々知ってインテリ系だし理数馬鹿だけど顔は結構きれいなんだよね。別に私面食いじゃないけど、きれいなものは見ていて悪い気はしない。こいつバスケ部とか入ってたら多分すごいモテモテだったよ。いや今でもモテないことはないんだろうけど。

顔がきれいで勉強も出来るけど、素直じゃなくて人見知り…っていうのが私の中の久々知像だ。絡み辛いけど、女の子にモテる要素は十分にある。……分かんないなあ、何で私なんだろ。


「、いた」


ぼーっと久々知を見ていたら、こめかみの辺りに何かが当たった。机に落下した、小さく折り畳まれた紙。……何だ、これ。机の下で音を立てないようにそっと広げた。

『何兵助ガン見してんだよ 脈ありか?』

………紙が飛んで来た方向。まさか。ちらりと横目で鉢屋を見れば、それはもう楽しそうににやにやと笑っていた。この野郎。むかついたので『違う。滅しろ』と書いた紙を鉢屋の頭目掛けて投げてやった。ナイスコントロール私。鼻で笑ってやってから前に向き直ると、数学の教師が腕を組ながらこっちを見ていた。


「名字、余裕そうだな。この問題解いてみるか」
「え」


鉢屋が小さく吹き出した。まじで滅しろあの野郎。「分かりません」、と素直に言ったら、私にだけ課題プリントが出た。いや意味分からん、本気で有り得ない。世の中っておかしいと思う。