「……………は?」


沈黙を破ったのは、ふいに漏れた私の間抜けな声だった。……え、何?


「あ、綾波●イ?」
「ええそうです。名字さんのその白い肌、時折見せる儚げな瞳、か弱い身体に隠された芯の強さ…まさに私の中のレ●そのもの理想通りです、どのイベントに行ったってここまでの逸材はそうはいませんよ!髪や目はウィッグにカラコンでなんとかなりますが雰囲気そのものは天性なのでどうにもなりませんからね、素晴らしいです完璧です非の打ち所がないです名字さん、いえ名前さん!貴方こそ実写版●イです!」


……………呆然とした。え、ちょ、今私の目の前にいるこの人は誰?なにかはよく分からないけど綾●レイ?を語る本田くんは興奮気味に拳を強く握り締め、更に背後には高々と燃え上がる炎が見える。な、なんか別人みたい…!だって本田くんっていつも物静かで落ち着いてるイメージというか、とにかくこんな姿を見るのは初めてだ。正直びっくりというかなんというか、どう言葉で表せばいいのか分からないけど…うん。ていうか本田くんどれだけ私を誤解してるんだ。私儚くなんてないし芯も強くないし見た目通りのただのチキンだし!


「…ああ、すみません。私とした事が少々取り乱してしまいましたね」
「(少々…?)う、ううん」
「それで本題なんですが名字さん、貴方には是非我が漫研に入っていただいてコスプレ要員になっていただきたいのです!」


なんでだろう、今度は本田くんの背後に荒々しく岸壁にぶつかる波が見えた。……告白ではなかったけど、本田くんの発言は私を驚かせるのには十分だった。漫研っていうのは本田くんが入っている漫画研究会のことなんだろうけど、それのコスプレ要員ってなに?漫画研究会って漫画を研究する会なんじゃないの?勘だけど、なんだかとてつもなく嫌な予感がする。…本田くんには悪いけど、部活とか入るつもりないし断ろう。


「あの、本田くん…」
「はいっ、なんでしょう名字さん!」
「え、…えーと…」


な、なんで名前読んだだけでそんなに嬉しそうなの…!どうしよう…断ろうと思ってるのにきらきらした目が痛いです本田くん!


「……わ、私で、よければ」


ってそうじゃないだろ私ー!!断ろうとしていたのに、何故か私の口からは本田くんの頼みを承諾する言葉が出た。えっえええええ何言ってんの私何言ってんの私!!きらきら光る本田くんの瞳につられてしまったとでもいうのか。恐ろしい。

慌ててすみませんやっぱり違うんですと言おうとしたけど、涙を流さんばかりに歓喜している本田くんを前にしたらとてもじゃないけど口に出せませんでした。えっと…あ、あれ?もしかして私、漫画研究会入部決定…?





続かない。