※一部モロ語あり



「ただいまー」


玄関の扉の開く音に隣でテレビを見ていたほたるがぴくりと反応したので、わたくしも読んでいた本から顔を上げてリビングの扉の方を見ました。数秒後、わたくしの双子の片割れであるクダリが勢いよく扉を開けて入ってきたので、わたくしは眉間に僅かに皺を寄せました。扉は静かに開け閉めしなさいと常日頃から申しておりますのに、困ったものです。


「あ、ほたるきてたんだ。なんか会うのひさしぶりだね」
「お邪魔してます。まあいつも来るとクダリ出かけてる事多いからね」
「えー?そう?…、」


にこにこと笑っていたクダリでしたが、ほたるの言葉に突然あっと何か思い付いたような顔をしてわたくしとほたるの顔を見てぎこちなく視線を反らしました。


「あ、じゃあぼく、上行こっかな」
「どうして?」
「何故ですか?」
「えっ」
「クダリ、もうすぐ貴方の好きな番組が始まりますよ。ほたるも見ているそうなので一緒に見れば良いではないですか」
「…でもぼくいたら邪魔じゃ、」
「なんで?見る番組一緒だし邪魔とか全然ないよ」
「クダリらしくありませんね」
「え…う、うん」


クダリがそわそわとした様子でわたくしを見ましたが、その真意は全く分からなかったので、わたくしは先程まで読んでいた本に再度目を落としました。




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「うわ、うわ!ここで終わるとか有り得ない!ふざけてるでしょ!クダリもそう思わない?」
「え?うん」
「来週絶対見なきゃー。あ、じゃあ私そろそろ帰るね」
「え!」
「何?」
「…ううん」
「そう?じゃあお邪魔しました」
「お気をつけてお帰りくださいまし」


テキパキと身支度をして部屋を出たほたるが、ガチャンという音を立てて玄関を出て帰っていったのを確認すると、クダリがまたそわそわとした様子でわたくしを見て、今度こそ口を開きました。


「…あのさあノボリ」
「なんですか」
「ノボリってさ、ほたるとうまくいってないの?」
「はい?何故そうなるんですか」
「だっておうちデートしてたんでしょ?なのにぼくいてもなにも言わないしほたるテレビ見てるのにノボリは本読んでるし、しかも二人ともずっと無言だし…」
「?いつもこうですが」
「ええ!」


クダリが驚いたように声を上げました。驚いたのはわたくしの方です。突然クダリにほたるとの仲を心配されるなど思ってもみませんでした。


「いつもって、デートするときいつもってこと?」
「ええ」
「…信じられない。ノボリとほたるって手もつないだことないでしょ」
「キスもセックスも済ませております」
「…ええ!」


…先程から一々過剰に反応してなんなのでしょうか。クダリはぽかんと口を開けたままわたくしを呆然と見つめており、若干居心地が悪いです。


「…ぼく分かんないなあ、ノボリってどうしてほたると付き合ってるの?」
「お慕いしているからに決まっているではありませんか」
「だってぼくだったら好きな子とはいっぱい話したいし傍にいたらくっついていちゃいちゃしたいと思うよ。ノボリは違うの?」
「付き合いたての頃はわたくしもそう思っていました」
「今は?」
「…そうですね、性欲など何処かに飛んでしまう程にお慕いしています。多分、同じ空間で同じ時を過ごすのが当たり前になっているのだと思います。だから一々がっついたりは致しません。…例えそこに第三者がいようとも」
「それぼくのこと言ってる?…じゃあさあ、ほたるがうち来るときぼくが出かけてること多いのは」
「たまたまです」
「あ、そう…」


ようやく気の済んだらしいクダリは、口を尖らせながら「ぼくも彼女欲しいなあ」などと言いながら自室へと戻っていきました。淡泊と思われようとも、お互い好きあっているのですから良いではありませんか。クダリが扉を閉めたのを確認してから、わたくしもようやく本の続きを読む事が出来ると、読みかけの活字を目で追い始めました。



***

熟年夫婦?…になってます、かね…。一緒にいるだけで満足なノボリと彼女。表現力が足らずなんだか不完全燃焼で申し訳ないです…!
リクエストありがとうございました!






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