これの続き



「ほたるちゃんて、ミクリには勿体ないよね」


爽やかに笑いながらとんでもない事を抜かしたダイゴさんに、思わず口に含んだシャンパンを吹き出しそうになったが耐えた。今日はミクリさんが招待されたパーティーに、例の如く半ば強制的に(否定出来なかった私にも否はあるが)恋人になってしまった私も同行している。

ダイゴさんは以前ミクリさん主催のパーティーで知り合った人なのだけど、それはそれは変わった人だ。そりゃあミクリさんだって相当変わってるけど、ダイゴさんとはタイプが違うというか、言うならばミクリさんは光でダイゴさんは…失礼だけど闇というか、ちょっと陰のある感じ。正直ミクリさんの友人じゃなきゃ絶対付き合わない類の人だ。


「…失礼ですけど、ダイゴさんって変わってますね」
「そうかな?」
「だって、普通逆じゃないですか。百人に聞いたら百人、私にミクリさんは勿体ないって言いますよ」
「それは卑下しすぎだよ。ぼくは君をとても魅力的な女性だと思ってる」


少しだけ目を細めて笑みを浮かべたダイゴさんは男の人だというのに酷く妖艶だった。普通の女の子ならダイゴさんみたいな人にこんな言葉を言われたらうっかり恋に落ちてしまうかもしれないけど、私は騙されないぞ。というのもミクリさんから聞いたところによると、なんとダイゴさんはミクリさんの前任のホウエンリーグのチャンピオンで、しかもあのデポンコーポレーションの御曹司らしい。あーもうそりゃ女の扱いに慣れてるわ。間違いない。今まで参加してきた数多くのパーティーでそうやって甘い言葉で女を口説いてきたに違いない。


「君がミクリの恋人でなければ、すぐにでも攫ってしまいたいといつも思うよ」
「お上手ですね。ダイゴさんになら私みたいのじゃなくても、この会場にいる女の人皆イチコロですよ」
「またそうやって自分を卑下する。君の悪い癖のみたいだね」
「卑下するっていうよりもともと、…っわ!」
「お待たせ、一人にしてすまなかったねほたる。私がいなくて寂しかったろう?」


突然首に回された腕に驚いて顔を上げると、そこにいたのはパーティーの主催者の人との話を終えたらしいミクリさんだった。び、びっくりした。終わったのならもう少し普通に声をかけてくれればいいのに、どうしてわざわざこんな恥ずかしい登場の仕方をするんだろう。少女漫画でしか知らない甘い台詞に、心臓はばくばくと音をたてて脈打っている。


「やあ、ミクリ。挨拶回りは終わったのかい?」
「ああ。…ところでダイゴ。いつもはパーティーなんて来るのも億劫だと言っていた君が、随分楽しそうだったね」
「ほたるちゃんとの会話に花が咲いてね」
「だろう?私の恋人は気配り上手なんだ」


…なんだろう。なんか今一瞬ものすごく気まずい空気が流れたよう、な。だけどそんな事私が口に出せるはずもなく、ミクリさんの腕の中で小さくなる他なかった。


「じゃあ、ぼくはそろそろ帰ろうかな」
「もう帰るのかい?」
「これ以上は後が怖いからね」


後が怖い?なんの事だろう。さっきからなんだか、ミクリさんとダイゴさんは私には分からないように会話をしているような、そんな気がする。ぼけっと二人のやり取りを眺めていると、ふいにダイゴさんが私を見てばちんと音がしそうなウインクをした。うわあ…。


「じゃあねほたるちゃん。また世間話に付き合ってよ」
「おいおいダイゴ、ほたるは私の恋人だからね。変な事はするなよ」
「ははは、肝に銘じておくよ」


ダイゴさんはそう言ってミクリさんの肩をぽんと叩くと、爽やかに笑いながら人込みの中に消えていった。ようやく解放された私は、失礼だけど安心して肩の力を抜いた。だって今日のダイゴさん、なんかすごく絡みにくかったから。


「ほたる、こっちへ」
「え」


脱力していたのもつかの間、突然ミクリさんにぐいと腕を捕まれて、パーティー会場を連れ出される。特になんの説明もなくミクリさんに連れて来られたのは、人気のない衣装室だった。こんな所になんの用が…なんて尋ねる間もなく、私は壁に背中を押し付けられてミクリさんとの間に挟まれる。驚いて顔を上げると、光が消えた瞳と視線が絡み合い、思わずびくりと肩を揺らしてしまった。な、なんかミクリさん、怖い。


「あ、あの…ミクリさん?」
「悪い子だね、ほたる」
「え…」
「私以外の男を誘惑するなんて、どういうつもりだい?…何処でそんな事覚えてきたのかな」


誘惑…?ってもしかして、さっきのダイゴさんと喋ってた事?もちろん私は誘惑なんてしてないけど、ダイゴさんが意味深に色々言っていたから何か勘違いしたんだろうか。とにかく目の据わったミクリさんは大層恐ろしいので、早く誤解を解かなくてはいけない。


「わ、私そんなつもりじゃ、」
「ほたる、男という生き物は君が考えているより簡単じゃない。既に一度、身を持って経験しただろう?…ようやく手に入れたんだ、私は君を逃がすつもりはない」


そう言ってそっと押し付けられた唇の隙間から、するりと舌が滑り込んできた。ああ、侵食される、なんて。今更だろうか。



***

遅くなってしまい申し訳ありません…!罠シリーズは書いていて楽しいので続編を書くきっかけを頂けて嬉しかったです。今後ヒロインはどうなってしまうのか…!?(笑)
リクエストありがとうございました!





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