「ほたる、ぼくおねがいがある」


今日はうちに所謂私の恋人というやつであるクダリが泊まりに来ていた。夕飯を食べてシャワーも浴びて、後はもう寝るだけとなって談笑していたその時、バチュル柄のパジャマ姿でクッションを両手で抱えたクダリが、私に向かってわざとらしくこてんと首を傾げた。…今のこの甘ったるい雰囲気は、クダリが私におねだりする時に醸し出すものである。嫌な予感しかしなかったけど、この状態のクダリを放置すれば非常に面倒な事に成り兼ねないので、私は仕方なく耳を傾けることにした。


「…何?クダリ」
「うん!あのね、ぼく今日ほたると一緒に寝たい!」
「ごめん無理」


うんまあやっぱりね。予感ってのは嫌なものほど当たるものだ。クダリからの有り得ないお願いに思わず口が引き攣ってしまった。クダリはクダリで自分のおねだりがコンマ五秒で打ち砕かれた事にショックを受けたのか、目を見開いてぷるぷる震えている。


「え、え…なんで?なんでいやなの!?」
「ごめんクダリ、私睡眠には命をかけてるの。寝る時はのびのびと手足を伸ばして誰にも邪魔されずたっぷりと睡眠を刔りたいから半径五メートル以内には何人たりとも入ってほしくない」
「なにそれ意味わかんない!」


いつもは私が理不尽に攻め立てようが罵ろうがにこにこして文句一つ言わないクダリが、珍しく私に噛み付いてきた。意味分かんなくないだろ、言葉通りの意味だよ。


「変だよ!それってぜったい変!」
「変じゃないよ」
「だってほたる、そんなの結婚したらどうすんの?いっしょに寝るんだよ」
「別々のベッドで寝る」
「そんなのだめ」
「じゃあ結婚しない」
「それはもっとだめー!」


クダリはぎゃあぎゃあ騒いでうるさいけど、一人で寝たいって思うの別に変でもなんでもないと思うんだけど。ドラマとか見てたって別々に寝てる夫婦多いじゃないか。私からすればクダリの言い分の方が十分変だ。


「ぼく、ほたると結婚するんだよ」
「はあ。…まあ、そうかもね」
「ぜったいするの!…結婚してお嫁さんといっしょに寝れないなんて、ぼくやだ耐えれない」
「そんな事言われても…」
「だから練習しよう。慣れればきっとだいじょうぶだから!」
「いや、だから私は」
「だめ!いっしょに寝るの!」
「ぎゃあ!」


遂に痺れを切らしたらしいクダリは持っていた枕を放り投げて、私の脇裏と膝裏に手を回していわゆるおひめさまだっこの形で私を抱え上げた。突然浮いた身体に驚いている私を余所に、クダリは私を抱えたままリビングを出て廊下をどかどかと荒々しく進んでいく。そして私の部屋まで行き中に入ったかと思うと、私をベットの上に放り投げてその上から飛びついてきた。いや、無理だわこれまじ。


「いやああ狭い!ベットが狭い!私こんな狭い思いしながら寝るなんて無理!」
「無理じゃない!」
「いや無理無理無理!何この圧迫感!」
「だから練習するんだってば!大人しくして!」


ベットから抜け出そうとする私を、クダリは全体重をかけて押さえ込んでくる。イヤアアこんな風にクダリにくっつかれながら寝るなんて有り得ないんだけど!私は全力でこの引っ付き虫を無理矢理引き剥がそうとするが、当のクダリは離すまいと逆にぎゅうぎゅうとしがみついてくる。う、うっとうしい…!

しかしそうしてしばらく二人でベットの上でもみくちゃになっている内に、私は予想外の事実に気付いた。


「…あれ、」
「どうしたの?」
「クダリ、あんたなんか暖かいね」
「え?そう?」
「うん、子供体温っていうか…ぬくい」
「え…ぼくこどもじゃないよ」
「外身はともかく中身は子供でしょ」
「中身もおとな!」


そう、クダリの体温は調子いい…というか暖かくて、冷え症の私にとってはまさに適温だったのだ。狭いのは嫌だけど、この温かさは嫌じゃない。最近夜になると少し冷えるし、クダリも離れる気ないみたいだし…。…狭苦しいのは大嫌いだけど、クダリを温かい抱きまくらか何かだと思えばいけるかもしれない。


「…よし、等価交換だクダリ。とりあえず今日は一緒に寝てもいいよ」
「え、ほんと!?」
「ほんとほんと。そのかわりあんま動かないでね」
「うんわかった!ぼくうれしい、ほたる大好き!」


そう言って嬉しそうに笑うと、余計に力を込めてぎゅうぎゅうと抱き着いてくるクダリ。なんて単純なの。ぎゅうぎゅう力強く首を締め付けられて苦しい…すごい苦しいけど、クダリ、あったかい。


「あークダリぬくい。湯たんぽみたい」
「え…ぼく湯たんぽ代わりなの?いっしょに寝てくれるのそのせい?」
「当たり前でしょ」
「えー!ほたるひどい!ぼくのカラダが目当てだったの?」
「人聞き悪い事言わないでよ」
「だってロマンチックさのカケラもないんだもん」
「いいでしょ、私と一緒に寝る機会なんてそうそうないんだから。…あ、その前にクダリ」
「なあに?」
「廊下とリビングの電気消してきて」
「えー」


自分が無理矢理連れて来たんでしょ、と言えばクダリは渋々立ち上がって「ベットから逃げちゃだめだよ!ぜったいだよ!」と言って部屋を出ていった。私どれだけ信用ないんだ。一人になった部屋で、そっと自分の真横のシーツに手を当てると、温かいぬくもりが残っていた。…まあ、たまには、こういうのも悪くないかもね。私はクダリが戻ってくるドタドタという大きな足音を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。



***

クダリちゃんと添い寝するはずが添い寝する一歩手前までで終わってry…クダリちゃんはなんかすごいあったかいイメージなのでぜひ冬は寝床をご一緒したいですね!ハアハア

リクエストありがとうございました!




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