「ぶわ、」


頭のてっぺんに何かを思い切り叩きつけられたような衝撃を受けたの後、冷たい何かが身体を包み込みぶるりと身震いした。痛い。身体が超痛い。なんだ、今何が起こった。冷静になり、自分の状況をみてみる。身体に張り付く衣服、髪をぽたぽたと伝う液体、そして私の視線の先には美しい一体のポケモン、ミロカロス。どういった経緯があったかは分からないが、どうやら私はこのミロカロスに水をぶちまけられたようだった。


「………何故」
「ミローン」


いやミローンじゃねえよ。思わず握り拳を作るが、慌てて解いた。ミロカロスは野生で存在するポケモンじゃない、つまりこのミロカロスにはトレーナーがいるはずである。ミロカロスに対して怒るのは筋違いだ。


「お嬢さん、大丈夫かい?」
「え、」


突如聞こえた声に振り返ると、エメラルドグリーンの髪の綺麗な顔の人(多分男。胸がないから)が私にハンカチを差し出していた。


「すまないね。わたしのミロカロスが随時と失礼をしたようで」
「………あ、ああ…はい…」


ミロカロスのトレーナーなら文句の一つでも言ってやろうと思っていたのに、私の意識は目の前にいる男のモミアゲに全部持っていかれてしまった。なんだあれ、どうなってるの。顔がイケメンなだけにモミアゲに噴出しそうになる。駄目だ、堪えろ私。言葉に詰まっていると、寒くて上手く話せないと勘違いしたらしく「こんなにも冷えて…」と眉を寄せて私の肩に手を置いた。確かに寒いけどあなたのモミアゲのが全然寒いです。


「貴女のようなか弱い女性の身体を冷やしてしまうなんて…私はとんでもない事をしてしまった」
「あの、大丈夫ですから。ハンカチしまってください」
「それじゃあわたしの気が済まない」
「…気にしてないですし、決して厭味とかじゃないんですけど………ハンカチでどうにかなるレベルじゃないですし」


さっきの水の衝撃は半端じゃなかった。多分あわとかみずでっぽうとかじゃなくて、みずのはどうとかそんなレベルだった。だから私は濡れるというより水を浴びた感じなので、ハンカチでは到底その水分を吸収できないだろう。…こんな事絶対口には出せないが、下着の中まで水でびちょびちょなのだ。


「だからもう、」
「それもそうだ。それじゃあわたしの家に来るといい。シャワーを貸すよ。うん、それがいい」
「え、」


私の家すぐそこなんですけど。そのたった一言を言う隙もないくらい彼の動作は的確で滑らかだった。彼の着ていた白いマントを羽織らされた後、何故か高そうな車(運転手付き)に押し込まれ、私は気がついたらモミアゲの人の家の前にいた。なんだここ、城か。そう思ってしまうほど彼の家は大層な屋敷だった。そしてそのまま彼に手を引かれ、私は家の中を引きずりこまれてしまった。いつの間にかお風呂は目の前。


「さあ、ここがバスルームだよ」
「いや、でも…」
「悪いのはこちらだからね。さあさあ遠慮せずに」


やはり何か言う隙もなく、ぐいぐいと半ば強引にバスルームに追いやられてしまった。なんだあのモミアゲ、人の話聞く気皆無過ぎるだろ。いらいらする気持ちとは裏腹に、びしょ濡れの身体が冷たくて寒いのは事実で、正直なところ温かいシャワーは今の私にとってこの上なく魅力的である。……まあ、シャワー浴びたらすぐにおいとますればいいよね。うん。本当はうちのがすぐ近くだったけど、気にしたら負けだよね。うん。

いろいろ諦めて決心が付き、纏っていた服を全て脱ぎ終わったその時、ちょっぴり開いた扉の隙間からモミアゲがミロカロスをボールから出しているのが見えた。そして聞くともなしに、モミアゲとミロカロスの会話(と言っていいのかは分からないが)が耳に入ってくる。


「よくやったね、いい子だミロカロス」
「ミロー」
「だけどハイドロポンプはちょっとやりすぎだよ。彼女が怪我でもしたらどうするんだい」


…ちょっと待て。愕然としながら、私は冷たい自分の身体を抱きしめる。モミアゲはとんでもない事ぬかしながらミロカロスを褒めていて、決して鈍感ではない私は全てを理解した。信じられない、というか信じたくないがどうやら私はあの男(とミロカロス)にはめられてしまった模様である。

(……そういや私、シャワーから出たら何を着ればいいの?身震いが止まらない。)






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