※若干百合っぽい



今日はたまたま私の非番と友達のカミツレちゃんのオフが重なった為、私はカミツレちゃんの家にお呼ばれされた。カミツレちゃんは我らがライモンシティのジムリーダー兼モデルのお仕事をしているスーパースターで、イッシュ地方でもかなりの有名人だ。バトルサブウェイで働いてるとはいえ雑務係である至って平凡な私には勿体ないくらい出来た友人である。


「お邪魔します」
「どうぞ」


久々に遊びに来たカミツレちゃんの家は相変わらず綺麗で、心なしかいい匂いがした。たわいない話をしながらリビングに入ったところで、私はテーブルの真ん中に飾られた真っ白な薔薇に思わず目を奪われた。しかも一本や二本なんかじゃなくて、すごい量。いやらしいけど、これ全部ですごいお金なんだろうな…。


「この薔薇綺麗だね。またファンの子からもらったの?」
「え?…ああ、その薔薇なら貴女の勤務先の白い方のサブウェイマスターさんから届いたものよ」
「え、」


何気なく聞いただけだったのに、カミツレちゃんの口から出た予想外の人物に驚いて思わず固まってしまった。私の職場の白いサブウェイマスターと言えば、間違いなくダブルトレインのサブウェイマスターであるクダリさんの事である。え、え…?どうしてクダリさんがカミツレちゃんに薔薇なんて…。私は顔には出さなかったけど、内心心臓をえぐられたような気持ちになった。というのも実は私、上司であるクダリさんの事が好きなのだ。嫌な予感がした私は、どくどく五月蝿い心臓に手を置きながらなるだけ平静を保って口を開いた。


「…カミツレちゃんとクダリさんって、付き合ってるの?」
「いえ、別に恋人じゃないわよ」
「あ…そ、そうなの?」
「まあ、どうやら向こうは私に好意を持ってるみたいだけど」


一瞬ほっとしたのもつかの間、目の前が真っ暗になった。クダリさんが、カミツレちゃんを好き…?衝撃の事実である。私の好きな人が、よりによって私の友達のカミツレちゃんの事が好きだなんてなんて皮肉なんだろう。…でもよくよく考えてむれば、有名人同士知り合いでも全然おかしくないし、そもそもクダリさんがなんでもない人に薔薇なんて送ったりしないよね。私、なに安心なんてしてたんだろう。なんだか惨めになって、じわじわと視界が歪んでいった。


「!…ほたる?どうしたの、」
「………」
「…まさか貴女、彼の事を?」
「………」


私は泣くだけで、何も言葉を返せなかった。それでもカミツレちゃんには分かってしまったみたいで「…ごめんなさい、」と言って私を細い腕で抱きしめた。違うよ、カミツレちゃんは何も悪くないよ。私が勝手にクダリさんを好きだったように、クダリさんが誰を好きになろうとクダリさんの勝手だもの。


「ほたる、泣かないで…私が彼と恋人になるなんて有り得ないわ。私達親しいわけじゃないし…。それに私には親友である貴女の方がずっとずっと大事だもの」
「カミツレちゃん…」
「ねえほたる、安心して。私これから先二度と彼とは関わらないようにするわ」
「え!?だめだよそんな事…!」
「聞いて。…だから、これから先もずっと私と一緒にいてくれるかしら?」


そう言ってそっと私の腫れた瞼にキスを落としたカミツレちゃんに、私は驚いて言葉を失った。カミツレちゃんはどうして失恋した私にこんなにも優しい言葉をかけてくれるんだろう。私なんてカミツレちゃんにそんな風に言ってもらえるような子じゃないのに。カミツレちゃんがクダリさんと関わらなくなる理由もないのに、私と一緒にいてほしいからだなんて…。そんなのだめ、と心の底では思った。カミツレちゃんに縋ってはだめだと。でも私は弱くて卑怯でずるくて、結局カミツレちゃんの優しさに甘えてしまうのだ。


「うん…」


私はほっそりとしたカミツレちゃんの身体に身を委ね、ゆっくりと目を閉じる。カミツレちゃんは小さく笑うと、今度は私の唇にそっとキスを落とした。だけど私は抵抗出来なかった。いや、しなかったのだ。私は目を開けて、今度は自分からカミツレちゃんの唇にそっとキスをした。





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