「えっ!?」


ロケット団復活の為にいつものように真面目に仕事に取り組んでいると、ふいにお尻を触られて、いやむしろ握られてびくりと身体が跳ねた。驚いて横にいる直属の上司であるランス様の顔を見上げるが、当の本人は涼しい顔をして書類をまとめている。…今現在このランス班の仕事場には、私とランス様しかいない。ましてランス様は私の真横にいたのだ。これはもう間違いないだろう。


「……あの、ランス様」
「なんですか」
「い、今おしり触りましたよね…?」
「触ってません」
「でも今、」
「なんです、私が貴女の尻を掴んだという証拠でも?」


自称冷酷(笑)をアピールするかのように鋭い目で睨みつけられる。尻触ったに証拠も何もないと思ったけど、いくらでも代わりのいる私のようなしたっぱが幹部であるランス様に逆らうのは賢いとは言えない。くそ…この人絶対私の尻掴んだのに!私は自分の立場の為、やむを得ずランス様に向かって頭を下げた。


「…じゃあいいです。疑ってすみませんでした」
「ふん、ただ謝罪されても困りますね」
「え?」
「疑いをかけられたままでは気分が悪いです。私がやっていないという事を証明しないと気が済みません」
「は…」


何言ってるんだこの人。犯人確定なのを見逃そうというのに、どうしてわざわざ話を引き延ばそうとするんだ。あんた絶対触っただろ、何白々しくやってないのを証明するとか言ってるの?まあそう言った所で絶対認めないだろうし、私も命は惜しいから口には出さないけど。面倒だが、仕方なく上司の茶番に付き合う事にした。


「はあ…でもそんな事どうやって証明するんですか?」
「簡単ですよ。私は桃尻が好きなんです」
「…桃尻?」
「そうです。桃尻以外に興味はありません」


真顔でフェチ発言を言ってのけるランス様に思わず言葉を失った。ランス様、あんたほんと残念なイケメンだよ。


「……そ、そうですか。で、それが?」
「察しの悪い娘ですね。今すぐここで貴女の尻を見せなさいと言ってるんです。桃尻でなければ、私が貴女の尻を触っていないという証拠になります」
「え、えー!?何その理屈なりませんよ!なんですかいきなり尻見せろって!嫌ですよ!」
「いいから見せなさい!私は自分の濡れ衣を晴らしたいんです!」
「いやああ団服引っ張らないでください!!」


団服を剥ぎ取ろうと掴みかかってくるランス様を押し返して引き剥がそうとしたけど、この人意外に力が強くて全然離れない。やだこの人目がまじだよ!怖いんだけど!!


「だっ誰か!誰か助けてぇ!!」
「往生際が悪いですね、無駄な抵抗は止めた方が身のためですよ!」
「ちょ、やっ嘘……アッー!」


*





「ひどい…もうお嫁に行けない…」
「ふ、これで私の無実が証明されましたね」


あの後ランス様に無理矢理団服を脱がされて尻を見られてしまったという有り得ない事実に、私はもう何も言い返す気力がなかった。…これが私の仕事場、そして上司だなんて信じたくない。上司に尻掴まれたあげく生で晒されるなんて、入団時にどうして予想できただろうか。しかもどうやら私は桃尻ではなかったらしく、有罪であるランス様は勝手に無罪になってしまっている。なんなの…私が何をしたっていうの。

軽い精神的ショックを受けた私は、とりあえずこの変態上司から離れる事で頭がいっぱいだった。もうなんでもいいから部屋に帰って寝たい。寝てランス様に尻掴まれたなんて忘れたい。


「もういいです、私ランス様は無実って事で妥協しますので…気分悪いので部屋に帰ります…」
「待ちなさい。誰が帰っていいと言いました」
「え…?」
「貴女の尻を見て興奮しました。責任を取って相手をしなさい」
「…あんた桃尻以外興味なかったんじゃないのかよ!」


真顔でとんでもない事を言ってのけたランス様に思わず書類を投げつけると、私は無心で仕事場を飛び出した。…転職、したい。





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