※ヒート→レアン表記あり




「…げ」
「えっ、」


涙でぐちゃぐちゃになった顔をした私と目が合うと、バーン様はあからさまに嫌そうに顔を歪めた。…いや、うん。こんな状況に居合わせちゃったんだから気持ちは分かるけど、別に私だって見られたかった訳じゃないしお互い様だと思うんだけど…。ていうかここ私の部屋だし私が何してようと勝手じゃないか。多分明日の練習の連絡でもしに来たんだろうけど、女の子の部屋に不躾にノックもせずに入ってきたバーン様にも責任はある。しばらく気まずい空気が流れ、無言で見つめ合っていたけど(変な意味じゃなくて)ついに私はその沈黙に耐え切れずに、小さくぐずんと鼻を啜った。(あ、思ったより大きな音になっちゃった)直後、バーン様が大きな溜め息を吐いた。

取りあえず私は涙でべたべたの顔を見られないように後ろを向いた。人にまじ泣きしてるところ見られるなんて最悪…しかも何でよりにもよってバーン様だよなんでだよ。もうやだ、今日は本当についてない。しゃくり上げるので精一杯で喋る所じゃなかったけど(多分すごい鼻声だし)、バーン様をこのまま放置しておくのはあまりに可哀相だ。きっとこんな状況じゃ立ち去るに立ち去れないだろうし、一体全体どうしたらいいのか困惑しているに違いない。(私だったらきっとそうだ)それに正直、私だってこんな状況願い下げだ。


「ば、バーン様っ…見なかった、事にして…い、…行ってくださいっ…」


搾り出すようにして発した言葉はものすごい鼻声で、我ながらとんでもない声が出たもんだと思った。でも言わなきゃバーン様このままだろうし、お互いに気まずいはずだ。というか本音を言うと、私のためにも早く立ち去って欲しい。そろそろ涙止めるの苦しくなってきたけど、人前で泣くなんて嫌だ。早く一人になって、すっきりするまで涙を流したい。しゃくり上げながらバーン様がいなくなるのを待っていけど、何故か立ち去る気配がない、バーン様の気配はまだそこにある。不思議に思ってちらりと後ろを見ると、バーン様は面倒臭そうに私のベッドに近付いていって、なんとどかりと音をたてて座った……え、何座ってるんですか、バーン様。


「バーン様、何で…」
「お前も座れ」


……えええ。いや…あの「座れ」って…私一人になりたいんですけど…っていうかバーン様さっきあんな嫌そうな顔してたんだから行けばいいのに意味分からないんですけど。なんでそこ座ってるの、そして私はそこに座るべきなの?というかそこは私のベッドの上です、バーン様。私がどうしようかと身動ぎしているとまたバーン様の眉間に皺が寄ったので、怖くて思わずバーン様の横五十センチほどスペースを空けた所に腰を下ろしてしまった。うわああもうこれ後戻りできないじゃん!逃げらんないじゃん!なんなんだよバーン様!お願いだから一人で泣かせてください……なんて責任転換。横に座っちゃったのは自分だけど、だって眉間に皺寄せてるバーン様てすごい怖いんだよ逆らえないよ。ああ、もうほんとやだ…。恨めしい…少々きつめの視線を送りつつバーン様の方を見たら、ばっちり目が合った。うわ、なんでバーン様こっち見てんだ。


「お前、何で泣いてんだ」


え…?いやいやいやバーン様、それ、試合中ならレッドカード一発退場ですよ。なんで聞くんですか。女の子が泣いてたら普通そっとしておくものじゃないの?何で泣いてるのって…そんな飄々と聞かないでほしい。知ってはいたけどバーン様にはデリカシーというものが欠けている。ぐし、と手の平で溢れ出る涙を拭う。お願いだから見ないでください、バーン様。きっと今私、すごく不細工だ。泣いて目は赤くて腫れてるだろうし、もしかしたら鼻水が垂れてるかもしれない。啜り上げてばかりで、呼吸する事すらままならない。私だって女の子らしい泣き方の一つもしてみたいものだけど、生憎今の私にそんな余裕はなかった。…あ、やばいほんとに鼻垂れそう。


「…おい、お前今すげぇ顔だぜ」


いやだからさあ…!(ほんとガン見だよなんなんだよ一体!)バーン様って本気でデリカシーない。すげぇ顔だぜって、思ってても普通泣いてる女の子に言うか?しかもそんなドン引きしたような顔で!言われなくても分かってるよちくしょー。


「なあ」
「……何ですか」
「男にでもフられたのかよ」


……。


「………っぅ」
「図星か」


バーン様って本当にデリカシーも遠慮もなくて最低だ。


「告白したのか?」
「………ち、がいます。フられた、っていうか、相手に、好きな人が、いて」
「…ふーん」


………え、いや、ふーんて…。下手に何か言われるよりは良いかもだけど人が傷ついてんのにふーんで終わりなの…いや別になにか望んでるわけじゃないけどさ。ああ…情けない、格好悪い。最悪だ。


「お前好きな奴いたんだな」
「……はい」
「全然知らなかった」
「…誰にも言ってなかったので」


小さな頃からずっとヒートの事が好きだった。別に付き合いたいとか思ってたわけじゃなくて、近くにいるだけで幸せだった。想いを伝える気なんてなくて、ヒートが幸せならそれでいいと思ってた。でも結局、人間そんな綺麗な生き物でいるなんて無理なんだ。好きな相手には好いて欲しい、誰だって。おこがましいにも程があるけど、私を見て欲しかった。なんて。しかもヒートの想い人が親友であるレアンだなんてなんかもう惨め過ぎる私。相手分かってるよ私は図々しい女だよバカヤロー。


「…おい、こっち向け」
「、え」
「ん」
「っえ?ちょ、いだだだだ!!」


いきなり二の腕辺りをつかまれて、バーン様の胸の中に身体がすっぽりと収まった。ほんの少しどきりとしたのも束の間、バーン様は自分のプロミネンスのユニフォームの袖で、私の目元をごしごしと擦り始めた。…っちょ、痛い痛い痛い痛い!!少しは手加減しろよ摩擦で火出ちゃうよこれ!!涙を拭いてくれているのはよく分かる。分かるんだけど、痛い。優しく拭う、というより、上から押さえ付けられているような感じだ。(目!目の皮が擦れる…!!)バーン様が手を動かす度、バーン様の赤いユニフォームに濃い染みが広がっていった。痛い。超痛い。………痛い、けど。

治まってきたはずの涙がまた、じんわりと目尻に浮かんだ。拭いても拭いても私の目からはとどめなく涙が溢れる。女とは思えない、涙でぐちゃぐちゃの情けない顔をしていたと思う。だけどバーン様は黙って、溢れ出す涙を拭い続けてくれた。ようやく涙が枯れてきた頃には、バーン様の袖はたっぷりと私の涙を吸収して湿っていた。


「…ありがとう、ございます…バーン様。すみません」
「お前泣きすぎだろ。俺の袖見ろよ、ビチャビチャじゃねーか」
「えええ…」


いやバーン様あんた勝手にやったくせに…(なんて嫌そうな顔するんだ)まあ確かに、片思いだったくせに泣きすぎかもしれないけど。


「ば、バーン様、私、ユニフォーム洗います」
「別にいい」
「や、でもやっぱ…悪いので」


「そうか?」というバーン様からユニフォームを受け取る。うん…だって目が。洗えって言ってた。(気がする)にしても、意外だ。失恋してそれをバーン様に慰められるなんて夢にも思ってもみなかった。いやほら…失礼かもしれないけど、バーン様ってそういう慰めるとかいうタイプに見えないじゃない?結局のところ私はそれにすごく救われたわけだけど…悲しい時って人のぬくもりが心地いいって本当なんだなあ。


「…バーン様、私、顔洗ってきます」


泣きすぎて視界がぼやけてきた私は、ぼんやりした意識を元に戻すため洗面所へ顔を洗いに、ついでに洗濯もしようとバーン様のユニフォームを手に抱え腰を上げた。


「待て」
「何ですか?」
「お前、俺が他人が泣きやむまで側にいるようなお人好しな人間だと思うか?」
「……え、」
「有り得ねーだろ。今お前を慰めたのにだって、下心があったからだ」


下心?下心ってなんだろう。聞く間もなく、バーン様は私のおでこに、バーン様のおでこをこつんとくっつけた。うわ、あ。バーン様の顔が、近い。これ。思わず体を引こうとした私の腰辺りを、バーン様はぐっと両腕で掴み引き寄せた。


「俺がお前に優しくしてやるよ。だから失恋した相手なんかより俺を選べ」


「ユニフォーム返す時に返事しろ。ちなみに断ったら殺す」、そう言って部屋から出ていったバーン様から預かったユニフォームを、ぎゅうっと掴んだ。断ったら殺すという恐ろしいくだりは置いておいて…バーン様は、ずるい。失恋して悲しい時に、抱き締めて優しい言葉をかけてくれる人がいたら、女の子がどきどきしないはずはないもの。でも、それ以上にずるいのは私だ。さっきまであんなにヒートの事好きだったはずなのに。

温かいその手を握り返してしまいたくなってしまった。






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