私はプラズマ団にゾロアを捕られてしまったショックと自分の情けなさに呆然としていた。私からゾロアを奪ったしたっぱは、既に私から見えないどこかへと消えてしまってもういない。このホームでバトルをしていた駅員とプラズマ団もいつの間にか何処かに行ってしまったらしい。私は惨めに一人、痛む足を押さえながらぽつんと座り込んでいる。



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「ほたる!?」


突如聞こえた聞き慣れた声にはっとして顔を上げた。いつもにたにたへらへら笑っている顔は何処へやら、真面目な顔をしたクダリさんが私の元に走ってくる。クダリさんには今朝も会ったはずなのに、なんだかとても久々に会ったような感じがした。


「ほたる、どうしてまだこんな所にいるの!?逃げろっていわれたでしょ!」
「足、捻って…」
「怪我してるの!?」


クダリさんは慌てたように私の前にしゃがみ込んだ。平気?痛くない?歩ける?立てないの?…いつもなら鬱陶しいと感じるはずのクダリさんの質問攻めに、私は引き攣っていた身体中の筋肉が解れていくのを感じた。ああ、やばい、どうしよう涙腺が。


「とにかくほたる、早くここから……ほたる?」
「クダリ、さん…」


ぼろり、遂に私の目から零れた水滴に、クダリさんはぎょっとしたように身体を強張らせた。


「どうしたの!?怪我痛い?」
「…違う、の」
「え?」
「ど、どうしようクダリさん!私、ゾロア捕られちゃった…!私、何も出来なかった、ゾロアが連れてかれるのをただ見てるしか出来なかった…どうしようクダリさん、ゾロアに何かあったらどうしようっ!」


クダリさんという知人の顔を見て多少なりとも安心したのか、私の感情は爆発してしまった。人前で泣くなんて大嫌いなのに、ボロボロと涙が溢れて止まらない。どうしようどうしようどうしよう。私はトレーナーじゃないけど、ゾロアは間違いなく私の大切なポケモンで、私が守ってあげなくちゃいけなかったのに。

声を上げて泣きじゃくっていると、ふいにクダリさんに抱きしめられた。いつもみたいに抱き潰すようにではなく、ふんわり包み込むような優しい抱擁に安心して力が抜けていく。


「ほたる、怖かったね。だいじょうぶ、もう一人じゃないよ。ぼくがいる」
「クダリさ、」
「ぼくが必ず君のゾロアを取り戻してあげる。だから泣かないで」


クダリさんはそう言うと、ちゅっと私の目尻に口付けた。私はびっくりして、動きだけでなく涙も一瞬で止まってしまった。クダリさんは目を見開いている私を見てにっこり笑うと、私の肩に自分の白いコートを着せて立ち上がり、モンスターボールを投げた。中から出てきたのはクダリさんの手持ちであるデンチュラだ。


「デンチュラ、ほたるを守って。もしプラズマ団がきたら遠慮なくやっちゃっていいよ。ぼくはプラズマ団を探しに行くからほたるはデンチュラとここにいて」
「え…、でも」
「ゾロアは絶対見つけるから。待ってて」


そう言ってくるりと後ろを向いて走り出そうとしたクダリさんの背中を見て、言いようのない不安に襲われた。そして気が付いた時には、私の口は意思とは関係なく勝手に言葉を紡いでしまっていた。


「っクダリさん行かないで!」


ぴしりと動きを止めたクダリさんはもちろんだけど、言った私も相当に驚いている。クダリさんはゾロアを取り戻しに行ってくれるっていうのに私は何を引き留めてるの、ていうか何でクダリさんを!

オロオロしていると、クダリさんは私に向き直りもう一度今度は私の額に口付けた。


「だいじょうぶ、すぐ戻ってくる」


クダリさんの言葉に私は何故か酷く安心して、黙ってただこっくりと頷いた。何も解決していないのに、私はどうしてこんなに安心しているんだろう。


21.大丈夫の魔法






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