ホームの隅で動けずにいる内に、いつの間にかカナワのホームにお客様は一人もいなくなっていた。ここにいるのは数人の駅員とプラズマ団のみである。と言っても隅で小さくなっている私はほぼ空気状態で、多分誰も私がいるのに気付いてないだろう。私は駅員とプラズマ団のバトルを見ながら、ゾロアの入ったボールをぎゅっと抱きしめた。

サブウェイの外へ逃げたいのは山々だけど、痛みで足が思うように動かない。もう一度ぐっと足に力を入れてみるけど、やっぱりものすごく痛くて立つのはもちろん、とてもじゃないけど歩くなんて無理そうだ。どうする事も出来ずにホームの隅で小さくなっていると、たまたま私の近くを通ったプラズマ団のしたっぱであろう男の一人が私を視界に入れると同時に目敏く私の手の中のボールに気が付いたらしく、にやにや笑いながらこちらに近づいてきた。


「お前トレーナーだな!そのボールのポケモンを解放するんだ!」
「わ、私トレーナーじゃない!」
「そんな事はどうでもいい。そのボールのポケモンを解放しろ!」
「絶対に嫌!」
「チッ、大人しくそのボール寄越せ!」


したっぱは私から無理矢理ボールを奪おうと掴み掛かってきた。ポケモンを解放しろ?冗談じゃない。私はゾロアが大好きだし、ゾロアも私に懐いて傍にいてくれる。これの何処に問題があるというのだ。絶対に渡してやるもんか。

しかし取られまいと必死に抵抗した努力も虚しく、足の怪我のハンデと男女の力の差でゾロアはあっという間にしたっぱの手に渡ってしまった。ボールが手から離れた感覚に冷や汗が流れた。…嫌だ、怖い。この男は私からゾロアを奪ってどうする気なの?


「ゾロア!」
「ははは!こいつは俺達プラズマ団が責任を持って解放してやる。感謝するがいい!」
「ふざけないでよ!ゾロアを返して!」
「無駄だ、大人しくそこで助けでも待つんだな!」


ゾロアの入ったボールを私に見せ付けるように、したっぱはそれを懐にしまい踵を返した。私はすぐに立ち上がろうと足にぐっと力を入れたが、崩れ落ちてしまった。何で、私ゾロアを取り戻さなきゃいけないのに、どうして。


「どうして動かないの…!」


私が立ち上がろうと四苦八苦している間にも、プラズマ団のしたっぱの背中はどんどん小さくなっていく。残されたのは足を捻って動けない情けない私。大切ななゾロアが奪われてしまったのに、どうして私はなにも出来ないの。

プラズマ団なんて私には関係ないと思ってたのに、気にもとめていなかったのに。でも誰がこんな事になるなんて予想出来た?ゾロアを奪われてしまうなんて想像出来た?どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。どうしよう、私。


「ゾロア、」


どうしたらいいの。


20.日常が壊れる音がした






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