お昼休みも終わり、お客様で混み合うカナワ行きのホームで私は今日も清掃業に励んでいた。カナワ行きのトレインは一般人も使用する為利用客が多く、清掃が大変である。普段なら憂鬱な気持ちになるが、私の気分は上々だった。今日は帰ったらゾロアとミュージカルを見に行くからである。前々からミュージカルホールの前を通ると興味深そうにちらちらと会場を見ていたゾロアの為、今日の夜の部のチケットをゲットしたのだ。実はライモンシティに住んでいながら私もミュージカルは初めてなので、かなり楽しみである。私は定時きっかりに上がれるよう清掃を終わらせようと、モップを水の入ったバケツに突っ込んだ。

その時である。突然、ブー、ブー、ブー、というけたたましい音を立てて突如非常警報装置が作動した。何事かと思い顔を上げる。ホームを行き交うお客様も、驚いたように立ち止まっていた。ガガッという放送の入る音。


『緊急事態発生、緊急事態発生!構内にプラズマ団と思わしき人物が多数潜入しています。お客様はホームの外へ、駅員は速やかにお客様の安全の確保に勤めてください!』


駅員の緊迫した声がサブウェイステーションに響き渡る。私はモップを持ったまま、突然の放送に立ち尽くした。…なんだって?プラズマ団?プラズマ団って、おばさん達が言ってた、あの?あのプラズマ団がバトルサブウェイに…?

放送が終わると同時、途端にお客様から悲鳴が上がる。それを引き金に、ホームにいたお客様は外へ出ようと走り出した。大混乱である。え、あれ、私どうすればいいんだろう。えっと、駅員はお客様の安全の確保…でも、どうやって?ていうか私は駅員に分類されるの?一人でわたわたしていると、こっちにお客様を誘導しながら走ってきた駅員の人が「君も外へ!」と言って私の背を押した。まあ確かに私はいたところでなんの役にも立たないだろうからそれが妥当だと思う。とにかく外に出ようと私もお客様と同じく走り出す。

すると何処かから、ドォンッという爆発音みたいなものが聞こえた。え、なに、今のってプラズマ団!?プラズマ団てテロなの!?流石に冷や汗が流れた。今の爆発音を聞いてお客様はよりいっそう騒ぎ、混乱は酷くなっていく。


「っ!」


その時、誰にかは分からないが、後ろから思い切り突き飛ばされ私は地面に激突してしまった。これだけたくさんの人間が揉みくちゃになっているわけだから仕方ないといえば仕方ないけど、結構な衝撃を受け思わず顔が歪む。かなり痛い。そして立ち上がろうとした時、私は自分の身体の異変に気付いた。……あれ?なんか足が、足が変…?嫌な予感がして、ゆっくりと足を動かしてみる。


「、っい!」


嫌な予感的中である。なんと最悪な事に、今の衝撃で足を捻ってしまったらしい。立ち上がろうとしても足に激痛が走り、力が入らない。なんてついてないんだ。思わず悪態をつきそうになったけど、このままここにいたら踏み潰されてしまいそうなので、私は仕方なくホームの隅に身体をずるずると引きずって移動した。すると逃げ惑う乗客の中に、水色のてるてるぼうずみたいなのが何人か混じっているのに気がついた。まさか、あれがプラズマ団…?


手当たり次第トレーナーからポケモンを奪ってるらしいわ


突然おばさんの言葉が頭に浮かぶ。…なんだか身震いする。私は無意識のうちにゾロアの入ったボールをぎゅっと強く握った。


19.緊急事態発生




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